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島根原発 30キロ圏外へ避難訓練 2県6市 住民778人参加

 島根県は26日、中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の事故を想定した原子力防災訓練を原発30キロ圏の鳥取県、両県の6市と合同で開いた。福島第1原発事故を踏まえた国の原子力災害対策重点区域の拡大を受け、住民778人が初めて30キロ圏外へ避難した。

 送電線のトラブルで同原発2号機が冷却機能を喪失したとの想定。両県と松江、出雲、雲南、安来、米子、境港の6市に加え、国や中電、自衛隊など計約100機関、約3700人が参加した。

 松江市の県庁に置いた災害対策本部が、6市と、松江市民の避難先とした大田市に事故の状況を伝達。直ちに避難する必要がある原発5キロ圏の予防防護措置区域(PAZ)の松江市民309人は、原発の南西59キロの大田総合体育館(大田市)に向かった。うち約130人は放射性物質による汚染を調べるスクリーニングを受けた。

 災害弱者となる社会福祉施設の入所者と子どもの訓練も実施。原発東5・5キロの介護老人福祉施設「ゆうなぎ苑」(松江市)では入所する高齢者と入所者役の県職員計44人の避難手順を確認。鹿島中(同)と広瀬小(安来市)の児童、生徒、教員計98人はそれぞれ大田、安来市に避難した。

 訓練後、溝口善兵衛島根県知事は「大勢の避難には車両の確保などさまざまな問題がある。参加住民の声を聞いて改善し、国にも支援を要請する」と述べた。

 原子力規制委員会は昨年10月、原発事故の避難に備える重点区域を10キロ圏から30キロ圏に拡大した。両県は島根原発30キロ圏に住む約46万9千人について広島、岡山県にも避難させる計画だが、詳細な行き先は未定。社会福祉施設の入所者たち要援護者の避難先は関西、九州地方も含め検討しているが、同じく決まっていない。(樋口浩二、黒田健太郎)

【解説】人口46万人 実効性課題

 島根原発の事故に備え、島根県が鳥取県や両県6市と26日に開いた原子力防災訓練は、一見滞りなく進んだ。だが、あくまでシナリオに沿った訓練で、交通渋滞への対策や要援護者の搬送手段の確保は手つかず。住民の安全な避難実現へのハードルは高い。

 参加した避難者778人は21回目の今回が最多。被害が広域に及んだ福島第1原発事故の教訓から原発の南西59キロの大田市まで逃げ、手順は一定に確認できたという。

 ただ30キロ圏の人口は両県で約46万9千人に上る。「実際の事故では逃げ切れるだろうか」。深刻な不安も聞かれた。松江市民約20万人が20キロ圏外へ避難するのにさえ15時間かかる―との松江高専教授の試算もある。

 社会福祉施設の入所者たち要援護者は両県で計3万5千人に達する。福祉車両やバスの不足は明らかで、支援を前提とした国との連携が欠かせない。

 島根県は国に先立ち2011年5月、鳥取県、両県6市と避難計画づくりを始めた。12年11月には全国で初めて30キロ圏外の一時避難先149カ所を示すなど、地道に作業を重ねてきたのも事実だ。

 「住民と課題を共有できた」(島根県)という今回の訓練は、実際の避難に向けた第一歩にすぎない。広島県など他県の避難先との本格的な調整もこれからだ。訓練に参加した住民の不安に耳を傾け、避難計画の実効性を高める必要があるだろう。(樋口浩二)

安全避難へ四つの課題 介護施設「自助には限界」

 中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の事故に備え、島根県が鳥取県と松江、出雲、雲南、安来、米子、境港の両県6市と26日に開いた原子力防災訓練は、安全な住民避難に向けた多くの課題が露呈した。避難したお年寄りや子ども、サポートした防災担当者の声から、少なくとも四つの課題が浮かび上がった。(樋口浩二、黒田健太郎、明知隼二)

■ルート確保
 松江市民309人の一時避難先となった原発から南西59キロの大田市の大田総合体育館。バスが次々と到着すると、市民が館内へと急いだ。「渋滞に巻き込まれずに避難できるかが心配」と、松江市古志町の主婦田渕貴美子さん(64)。避難経路は、県内では交通量の多い国道9号だった。

 安来市は30キロ圏内の市民92人を圏外の伯太中央交流センター(同市)に避難させた。近藤宏樹市長は圏内の市民が約3万6千人に上ることを挙げ「実際はもっと混乱する。避難ルートの確保など課題は山積している」と強調した。

■子ども
 伯太中央交流センターには、広瀬小の児童32人も身を寄せた。同小6年の大曲舞桜(まお)さん(12)=安来市広瀬町=は「事故が起きたら避難所はもっとごった返して埋もれてしまいそう」と不安げな表情。平原金造校長(60)は「子どもを迎えに来る親への連絡態勢を築かないといけない」と話した。

■要援護者
 入所者に扮(ふん)した県職員21人を施設外に搬送した介護老人福祉施設「ゆうなぎ苑」(松江市)。自前の福祉車両は4台にとどまるため、この日は自衛隊の車両など3台を借り、30分かけて運び出した。出羽雄二施設長(44)は「自助努力には限界がある。県と市の支援が欠かせない」とした。

■スクリーニング
 放射性物質に汚染されていないかを調べるスクリーニングは、参加の6市全てが実施した。安来市の伯太中央交流センターでは40人に対し、40分の予定時間を5分超過した。市危機管理課の内田貴志課長は「予想以上に手間取った。やり方を考え直さないといけない」と振り返った。

(2013年1月27日朝刊掲載)

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