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被爆体験残す責務 広島の矢野さん手記 子どもの叫び声・自ら母火葬…

 広島市南区の矢野善曠(よしひろ)さん(86)が、被爆体験をつづった手記を自費出版した。竹やぶで雨風をしのいだこと、自ら母を火葬したことなど、胸に秘めてきた被爆直後の記憶と向き合った。

 タイトルは「私は広島の原爆からこうして生き延びてきた」。矢野さんは爆心地から約1・5キロの横川町(現西区)の自宅で被爆。手記では終戦の翌年春、市職員になるまでを中心に振り返った。

 あの日。倒壊した自宅をはい出し、火の手を逃れた。買い出しに行っていた母と2日後に再会。頼れる親族はおらず約1カ月間、姉と3人で竹やぶで過ごした。「夜、暗闇の中から『痛いよー、痛いよー』と幼い子どもの叫び声がする。あちこちにろうそくがともされ、ともしびが不気味であった」

 母は9月、高熱や血便に苦しんで亡くなった。姉と河原で遺体を焼いた。「立ち上る炎が青くなったり、赤くなったり、また黄色にも見えた」と記す。

 約10年前からパソコンで自分史を書きためていた。年齢を重ねるにつれ「克明な記憶を残すことが責務との思いが強くなってきた」と、被爆に関する部分を本にまとめた。福島第1原発事故も、出版への背中を押したという。110ページ、1155円。文芸社。(田中美千子)

(2013年1月28日朝刊掲載)

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