×

社説・コラム

天風録 『深い反省』

 <あまたなる命の失(う)せし崖の下海深くして青く澄みたり>。米軍に追い詰められた多くの民間人らが、絶壁の上から海に身を投じた。太平洋戦争の激戦地サイパン島で、戦後60年の節目に天皇陛下が追悼の思いを歌に込めた▲戦争の犠牲者は国籍を問わず全て慰霊し、平和を祈る。それが目的の海外訪問は初めてだった。戦後半世紀には沖縄や広島、長崎と国内の惨劇の地を巡った。戦争の傷痕から目をそらすまいとする真心が伝わってくる▲きのうの戦没者追悼式では、今年も「深い反省」のお言葉が聞かれた。惨禍が再び繰り返されぬことを切に願うと続いた。ご夫妻でのいちずな行動が伴っているだけに、重い言葉もすんなり耳に入った人が多かったのではないか▲不戦を誓う原体験は敗戦直後にあるらしい。疎開していた奥日光から東京に戻った時に見たのは焼け野原にある小さなトタン屋根の家々…。戦争が一体何をもたらすか。曇りなき11歳の目に強く焼き付いた風景を思う▲30年余りに及ぶ平成の世は、来年4月末で幕を下ろす。<戦(いくさ)なき世を歩みきて思ひ出(い)づかの難(かた)き日を生きし人々>。戦争という惨禍は古びはしない。世代がどれだけ移り変わろうとも。

(2018年8月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ