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社説・コラム

社説 地上イージスと山口県 配備受け入れを急ぐな

 地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を巡り、候補地である陸上自衛隊むつみ演習場(萩市)周辺の住民が不安を募らせている。山口県の村岡嗣政知事は防衛政策に理解を示す一方で「県民の安心安全を確保する立場から言うべきは言う」という姿勢だが、物足りなさは否めない。

 北朝鮮の核・ミサイル廃棄は進んでいない―というのが小野寺五典防衛相の見方だが、それなら国民的な議論を踏まえて配備先を決めるのが筋だ。むつみ演習場は秋田市の陸自新屋演習場とともに「最適候補地」とされたが、その理由をいま一度、村岡知事は小野寺防衛相に問いただすべきではないか。

 むつみ演習場の一部がある阿武町の花田憲彦町長は、候補地の再検討を求めた。阿武町は演習場の北西に位置し「有事にはミサイルが町の背後から発射される」という不安があるという。萩市の藤道健二市長は配備の賛否は判断できないとした上で、農業用水などに使われている地下水の水量や水質に配備が影響を及ぼすとの懸念が地元にあると防衛省に伝えた。

 また、むつみ演習場は1961年の誘致以来、2度にわたって地元と陸自が覚書を交わしたが、ミサイル基地は覚書に反するとの意見も噴き出している。仮に覚書に反しないとしても疑義が生じたのなら、防衛省は誠実に対応すべきだろう。

 候補地が住宅街に近い秋田県では、住民だけでなく佐竹敬久県知事も不快感を交えて反発している。山口県だけが受け入れを急ぐことはあるまい。

 そもそも、イージス・アショアは米国の「言い値」に基づく超高額の買い物だ。本体の予算は当初、1基800億円を想定していたが、1340億円に高騰し、2基で2680億円にのぼる。これに導入後の維持・運用費を加えると、総額は4664億円にも膨れあがる。

 試算には日米共同開発の迎撃ミサイルの経費は入っていないため、結局のところ、2基の配備に6千億円を超すコストがかかる。さらに施設建設費や土地整備費など、試算に含まれない経費が上積みされていく仕組みだという。米政府の有償軍事援助(FMS)に基づくため、価格や納期は米国側の提示を受け入れなければならない。

 とはいえ、巨額の投資に見合うだけの防衛の要になるのだろうか。2019年度の概算要求でイージス・アショア2基の本体価格の一部が計上される見通しだが、23年度の運用開始目標は調達遅れで先延ばしになる可能性が強いという。「先払い」ばかり求められるのでは、納税者の理解も得られまい。

 防衛省はミサイル発射に備えるイージス艦の日本海での常時展開を取りやめ、中四国地方や北海道の陸自駐屯地に展開した地対空誘導弾パトリオット(PAC3)部隊を撤収させた。その一方で、自衛隊によるミサイルの迎撃を可能とする破壊措置命令は継続したままだ。

 PAC3撤収などは朝鮮半島情勢の緊張緩和に伴う動きだが、おのずとイージス・アショア導入にも疑問符が付く。防衛省の対応はいかにもちぐはぐで「無用の長物」になりはしないか。「導入ありき」ではなく、地元にも、納税者にもあらためて丁寧な説明が求められる。

(2018年8月17日朝刊掲載)

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