×

ニュース

大学院に平和学研究科目標は 広島市立大広島平和研究所長 吉川元さん

戦争防ぐ人材を育成 科目 被爆地ならでは

 2019年4月、広島市立大(安佐南区)大学院に平和学研究科の修士課程が新設される。国公立大では初の設置。4月で設立20周年を迎えた同大広島平和研究所の研究実績を生かし、平和創造の人材を育成する教育の拠点を目指す。準備の先頭に立つ同研究所長の吉川元さん(67)に、ビジョンを語ってもらった。

 被爆者が少なくなる中で平和の仕組みを創り、壊れた平和を立て直すことを学問として探求し、担う人材を被爆地で育てたい。研究者だけでなく、国際公務員も含めた行政関係者、情報やアイデアを発信するジャーナリストらを送り出すことを目標としている。

 研究科を置く来年は第1次世界大戦が終結し、平和学が誕生して100年の節目になる。1300万人が亡くなった大規模な戦争が、なぜ起きたのか。外交官に任せて失敗し、軍人が出てきて大戦となった。どうやって平和を維持し戦争を予防するか。国際政治において平和を創り出す政策志向の学問が平和学だ。しかし、これまでは現実の政策との間にはギャップがあった。

 この100年の蓄積を今こそ生かしたい。カリキュラムの目玉の一つが「広島と核」。原爆投下のプロセスから被爆者の状況、米国特有の「核文化論」など広島ならではの科目群を設定する。また地域研究はアジアに特化する。アジアにはイスラエルを含めて五つの核保有国があり、世界の軍事費の上位10カ国の五つまではアジアにある。日本は平和国家といい、唯一の被爆国といいながら、厳しい状況に置かれている。

 この時期に平和研究や国際関係に通じ、世界を分析できる人を育てることには大きな意味がある。広島平和研究所はこれまでシンポジウムや公開講座を開いてきたが、平和研究で一番、大事なのは戦争を防げる人材をつくることだ。

 研究科の教員は16人体制で、新たに3人の教員を迎える。外国人教員は5人となる。社会科学系の大学院で、これほど充実しているところは少ない。研究所と研究科はスタッフが兼任し、一体化すると考えていい。

 2年先に博士後期課程を置く予定だ。もちろん人を育てるのは時間がかかる。社会的影響力において成果が出るのは5年、10年、20年先かもしれない。しかし医師は一人一人の命を救うが、平和学は政策によっては100万人、200万人の命を一度に救える。

 主に広島市立大以外からの応募を想定し、現役ジャナーナリストを含めて社会人が応募しやすいように支援制度を設ける。全国、世界から広島に集い、巣立つことを期待している。

きっかわ・げん
 広島市安佐北区生まれ。一橋大大学院博士課程単位取得退学。広島修道大教授、神戸大教授などを経て13年現職。専門は平和研究、国際関係論、予防外交論。

25日説明会 社会人支援も

 広島市立大大学院平和学研究科の修士課程(平和学専攻)のカリキュラムの柱は三つある。「広島と核」をはじめとする研究基礎科目、核軍縮や国際人道法など「平和の理論」、北朝鮮の核問題や国連の現状などを学ぶ「グローバル/リージョナル・ガバナンス」。

 来年4月着任予定の国際政治学者、大芝亮氏らを含めて教員は国際関係論、社会学、原爆被爆者問題、日本近現代史などを専攻する16人。広島平和研究所長が研究科長を兼ねる。

 募集は10人。出願は12月17~27日で一般入試・社会人特別入試は来年2月9日。公務員や報道機関で働く人などを対象に学費免除や2年の授業料で4年まで履修できる社会人支援制度を設ける。外国人留学生特別入試もあり、英語で学位取得可能。平和首長会議の加盟都市からの留学も想定する。

 説明会は25日午後3時半から、広島市中区の広島市立大サテライトキャンパス。平和研究所☎082(830)1811。

(2018年8月20日朝刊掲載)

年別アーカイブ