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基町高「原爆の絵」広がる輪 米で海外初展示 原画 名古屋へ貸し出し

「描く」追体験 手法に注目

 広島市中区の基町高創造表現コースの生徒たちが2007年度から描いてきた「原爆の絵」がこの夏、国内外で披露されている。被爆者から高校生が体験を直接聞き取り、核兵器がもたらした惨状を絵にする試みは戦争体験を次世代へ継承する方法として広がりつつある。(山本祐司)

 原爆の日の6日、米国北西部のポートランド市であった平和イベントで、基町高の原爆の絵のうち、24点が展示された。実物ではなく、絵を保管している原爆資料館に画像データの提供を申請し、データを取り寄せて現地でプリントした。資料館によると、海外でまとまって展示されるのは初めてだという。

 同市は長崎原爆のプルトニウムが生産されたハンフォードの西にあり、核問題への関心が強い。企画した現地在住の川野幸代さん(43)は基町高卒業生。アートを通して平和を訴える活動を続け、後輩の作品を広く知ってもらおうと考えた。

涙を流す人も

 被爆者の児玉光雄さん(85)が逃げる途中、助けを求める女性に足をつかまれた光景を描く絵。原爆に両親を奪われた笠岡貞江さん(85)が変わり果てた父と再会した場面の絵…。会場には約200人が訪れ、涙を流した人もいたという。「高校生が被爆者の見た光景を追体験した絵は、見る人の心を動かしてくれる」と川野さんは振り返る。

 基町高の原爆の絵は、広島平和文化センターから依頼を受けて制作する。希望した生徒が、市の被爆体験証言者と繰り返し会って作品づくりの助言を受け、1年かけて完成させる。これまで36人の証言を基に126の作品が生まれた。

 当初、一連の絵は証言者が体験を話す時に補助的に使うのが目的だった。しだいに作品自体が持つ力に関心が集まるようになった。これを受け、資料館は16年度から複製63枚の貸し出しを開始。17年度は20件。本年度も用意した5セットは予約でいっぱいだという。同じ作品群の画像データを収録したCDの貸し出しも今月末までで27件と、17年度の3倍を既に超えた。

他校のモデル

 この夏は、広島県外への原画の貸し出しも初めて行われた。7月から9月2日まで名古屋市の平和資料館「ピースあいち」で開催中の企画展だ。児玉さんの証言に基づく作品も含めた10点が一般の美術品と同様の扱いで輸送された。会場を訪れた基町高3年の曽根沙也佳さん(17)は「原画は空気感が違う。筆跡もしっかり残り、悩んで描いた生徒と一緒に記憶を伝えようとする被爆者の思いが、より伝わったと思う」。

 名古屋での展示を機に、思わぬ広がりもあった。地元の東邦高美術科の2年生が基町高に倣い、名古屋空襲の体験者に会って絵画や彫刻などに表現する活動を始めた。9月の文化祭で発表するという。

 基町高はこの夏、新たに完成した10作品を、広島で公開した。指導する橋本一貫教諭(59)は「絵を制作する中で、生徒は相手への思いを深めていく。平和とは何か、自分に引き寄せて考えていく過程が大切」と話している。

(2018年8月27日朝刊掲載)

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