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社説・コラム

社説 辺野古埋め立て承認撤回 知事選でも議論深めよ

 沖縄県はきのう、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、仲井真弘多(なかいま・ひろかず)前知事による埋め立て承認を撤回した。政府は法的に対抗する方針で、両者は再び法廷闘争に入ることになりそうだ。

 沖縄では、翁長雄志(おなが・たけし)知事の死去に伴う知事選が13日に告示される。辺野古移設問題が最大の争点となるだろう。

 地方選挙とはいえ、国の政策の是非が問われる。与野党は、国政選挙並みの支援態勢を取る構えという。だが、肝心なのは沖縄県民の選択であることを忘れてはなるまい。

 知事選を巡っては、事実上の一騎打ちとなる構図が見えてきた。移設反対を訴え続けた翁長氏の後継候補として、自由党衆院議員の玉城(たまき)デニー氏が先日、無所属での立候補を表明した。安倍政権が支援する前宜野湾市長の佐喜真淳(さきま・あつし)氏も、既に名乗りを上げている。

 4年前の知事選では翁長氏が「辺野古新基地反対」を訴え、経済重視の保守層と、基地のない沖縄実現を目指す革新系組織が、移設反対の一点で歩み寄って「オール沖縄」を構築し、勝利した。だが安倍政権はその民意に向き合わず、辺野古移設を「唯一の解決策」として沿岸の埋め立て工事に強行着手した。対立が深まるのは当然だろう。

 政府は、埋め立てのための土砂投入を8月17日に始めると県に通知していたが、天候などを理由に延期してきた。県としては現場の原状回復が不可能となる土砂投入を、承認撤回で何としても止めたかったのだろう。だが双方が知事選をにらんで動いたようにも映る。攻防はさらに激化したのではないか。

 それでなくても政府と県との対立は長期化している。一部には「国に反対しても仕方ない」との諦めムードが広がり、県民の間で対立や分断が進んだともみられている。

 そのせいだろうか。今年に入って名護市長選や、自衛隊配備が争点だった石垣市長選などで翁長氏が支援した候補の敗北が続いた。「オール沖縄」態勢のほころびを指摘する声もある。

 立候補表明した2人は共に、県民の対立や分断について懸念を口にしている。ならばこの状態をどう解消するのか、具体的ビジョンを示す必要があろう。

 そのため、辺野古移設を巡る議論は避けて通れまい。玉城氏は、翁長氏の遺志を引き継ぎ、「移設阻止を貫徹する」と主張している。一方の佐喜真氏は、普天間飛行場の危険性を除去する必要性を繰り返し訴えるものの、辺野古移設の是非については明言していない。

 この問題の争点化を避ける狙いがあるのかもしれない。確かに選挙で問われるのは、辺野古の問題だけではない。しかし地域振興は、基地の整理縮小と切り離せないはずである。

 安全保障政策に関わる問題だからといって、政府は県民を分断する形で移設を進めていいのだろうか。安保政策上、本当に必要なのかという点も含め、再検証が要る。沖縄の声に耳を傾け、対話を十分重ねた上で国政の場で論議すべき問題だ。

 十分な対話や議論がなければ知事選後もしこりは残ってしまう。政府は、県民の分断をあおるのではなく、硬直した姿勢を見直し、不信や対立を解消する道を探らなければならない。

(2018年9月1日朝刊掲載)

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