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連載・特集

議論の成果 どう生かす 高校生が探る平和構築 ひろしま国際フォーラム3年

参加倍増 33ヵ国・地域に

 広島県内と国内外の高校生たちが国際平和を考える「ひろしまジュニア国際フォーラム」が8月19~22日、広島市中区の広島国際会議場を主な会場に開かれた。平和構築に貢献する若者を育てようと、県が2016年に始め、3年目となる今回は事前学習の仕組みを導入するなど、若者の学びをサポートしてきた。参加国が年々拡大するなど定着は進むが、発信力をどう高めるかなどの課題も見えてきた。(教蓮孝匡)

 「人種差別はどうすればなくせるかな」「教育が鍵になる」。広島国際会議場の一室で19日、参加した79人が10グループに分かれ、英語で議論していた。テーマは「平和を築くために考えるべきことは何か」。英単語を電子辞書で調べたり、スマートフォンで検索した国際機関のホームページを仲間に示したりしながら、互いの考えを深めた。

 3日間の意見交換を経て21日に発表したのが「広島宣言」で、平和を実現するための道筋を盛り込んだ。核廃絶を話し合う新たな会合の開催を全ての核保有国に呼び掛け、核保有国の同盟国には「核兵器の非人道性を理解するべきだ」と訴えるなど、世界を意識したメッセージを込めた。

 一方で、核兵器や貧困、差別などの克服へ「核廃絶の署名を集める」「人に親切にする」など、参加者が普段からできる取り組みも掲げた。高校2年生に当たる広島中等教育学校5年中村朱里さん(16)=安佐南区=は「戦争の歴史や現在の世界の課題を率直に話し合え、平和への思いが深まった」と振り返った。

 県は毎年8月、県内や国内外の約80人を招いてフォーラムを重ねる。3回目の今回は、初回の16年の約2倍となる33カ国・地域から参加した。核保有国や民族対立が続く国など、さまざまな背景のある若者が集う。

 被爆者や国際平和の専門家たちから話を聞き、討論を重ねる中で、大きく成長するという。県国際課の山本耕史課長は「平和を学ぶことに加え、幅広い国の仲間と寝食を共にする交流で友情も芽生える。参加を希望する県内の高校生も増えてきた」と語る。

ディベート苦手

 見えてきた課題もある。一つは日本人高校生のディベート(討議)への苦手意識。過去の議論では、日本人の発言が少なくなりがちな傾向がみられたという。県は要因として、英語力や知識量、考えをまとめる力、場慣れなどが複合的に重なり合っていると分析する。

 そこで今回から導入したのが、民間のオンラインシステムを活用した事前学習プログラムだ。小中高校で20年度以降に順次、実施する次期学習指導要領にも取り入れられた、自ら課題を見つけて学びを深めるアクティブ・ラーニングの手法を採用。国内の参加者に4月から4カ月間、ウェブ上でのグループ討議やリポート作成を課した。

 長崎市から参加した活水高1年野村ひかりさん(15)は、市内の被爆者に友人とインタビューするなどしてリポートをまとめた。「あらかじめ考えを整理でき、みんなに伝えたい思いがわいた。苦手な英語でも楽しく議論できた」と語る。

発信力にも課題

 もう一つ、発信力の向上が課題として浮かぶ。広島宣言は日本の外務省や国連関係機関に届けるが、同時期に県が広島市で開く核軍縮の専門家会議「ひろしまラウンドテーブル」の参加者などには配っていない。

 初回からフォーラムの取りまとめ役を担う広島修道大(安佐南区)の佐渡紀子教授(平和学)は、広島で開かれるほかの平和関連の会合に届けるなど、より多くの人の目に触れる取り組みが重要と指摘する。「大人がはっとするような新鮮な視点の意見もある。広島に集った世界の若者の議論の成果を、より生かせる余地はある」と訴える。

ひろしまジュニア国際フォーラム
 平和な世界の実現に貢献する次世代の人材育成や広島県の国際平和拠点性の向上を目的にする。参加者は広島国際会議場(中区)を主会場に専門家の講義を聴いたり、意見を交わしたりする。期間中は、広島市内の宿泊施設で共同で生活する。今年の参加者の内訳は、日本人高校生43人(うち県内30人)、国内に留学中の高校生16人(同4人)、海外の高校生たち20人だった。主催する県の2018年度の事業費は1900万円。

(2018年9月3日朝刊掲載)

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