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セミパラ研究 成果紹介 星正治広島大名誉教授 出雲で講演 

 旧ソ連最大のセミパラチンスク核実験場があったカザフスタンで、住民の放射線被曝(ひばく)について調査・研究を続けてきた広島大の星正治名誉教授(65)=放射線生物・物理学=が、島根大医学部(出雲市)で講演した。長年の研究の成果や、被曝のリスク評価の難しさなどについて解説した。

 星名誉教授は1993年、広島大原爆放射線医科学研究所(広島市南区、原医研)を訪れたカザフスタンの研究者から現地の様子を聞き、94年に研究を開始。「話を聞き、大変なことが起こっていると理解した」。以来、放射線が住民の健康に及ぼすリスクを解明するため、土壌やれんがに残る放射線量を調べ、住民の被曝線量を推定する研究を続けてきた。

 現地調査を続けてきた背景には、現在の被曝リスク評価の「限界」がある。

 現在の国内外の放射線防護の基準には、広島と長崎の被爆者が浴びた放射線量を推定する計算式「DS02」に基づくリスク評価が反映されている。しかし「原爆による一瞬の被曝と、長期にわたる低線量被曝とはリスクが異なるとされる」と指摘。放射性物質を体内に取り込む内部被曝をどう評価するか、の難しさにも触れた。

 10年以上に及ぶ現地調査では、カザフスタンの研究者とも連携し、人間の歯や甲状腺、染色体などの試料も分析した。「微妙な線量のため、一つの方法では正確な推計は難しいと判断した」

 推計結果を突き合わせた結果、核実験場から約110キロ離れた村の被曝線量が約500ミリグレイで一致。これを基に、土中に残る放射線量から、住民が浴びた線量を推定する式を確立できた。「これで別の場所でも線量の推計が可能になった」と成果を紹介した。

 ただ、最終的なリスク評価は完了しておらず、「放射線の影響に関しては、まだ分からないことだらけだ」とも付け加える。

 福島第1原発事故にも言及。「影響が分からない以上、危険か危険でないかという議論ではなく、まずは被曝に関する正確な調査データを残すことが大事だ」と強調した。

 講演は、島根大とセメイ市(旧セミパラチンスク市)のセメイ国立医科大の交流協定締結を機に1月28日に開催。学生や教員たち約150人が聞いた。(明知隼二)

ほし・まさはる
 1948年宮崎市生まれ。広島大大学院の助手、助教授を経て、94年から原爆放射能医学研究所(現原爆放射線医科学研究所)教授。2012年3月に退任し、現在は同大名誉教授。

カザフスタンの被曝者
 カザフスタンには、旧ソ連最大で約1万8500平方キロと四国とほぼ同じ面積のセミパラチンスク核実験場があり、1949年から89年まで450回以上も核実験が繰り返された。うち100回以上は空中や地上で行われたため、放射性物質が広範囲に広がり、異常出産が相次ぐなど深刻な被害が出ている。同核実験場は91年に閉鎖されたが、今も多くの人が心臓病や血圧の病気、肺がんなどに苦しんでいる。カザフスタン政府によると、影響がある人は約150万人に上るという。

(2013年2月4日朝刊掲載)

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