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社説・コラム

社説 南北首脳会談 非核化の実行 欠かせぬ

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による3度目の南北首脳会談がきのう、平壌で始まった。

 3日間の日程で南北関係や軍事的な緊張緩和などについて話し合う予定だが、国際社会が最も注目しているのは朝鮮半島の非核化問題だろう。米国との対立で続く足踏み状態を打開するためにも、最優先のテーマとして議論を尽くしてほしい。

 文氏も「非核化のための米朝対話を促進させる」と強調している。焦点は、金氏から核・ミサイルの廃棄に向けた具体的な行動の約束を引き出せるかどうかだろう。今月末には国連総会出席のため、ニューヨークを訪れ、トランプ米大統領と会談する予定になっている。何らかの成果を得たいはずだ。

 一方で北朝鮮側にも、米朝協議の「仲介役」を文氏に期待している節がある。金氏は今月に入り、トランプ氏に親書を送り、再会談を求めている。

 米政府は年内の再会談へ向けて調整に動きだしたとされる。今回の南北会談は、その地ならしの場になりそうだ。

 さらに金氏は先ごろ、訪朝した韓国の特使団に対し、トランプ氏の1期目の任期内に非核化を目指す考えを語ったという。非核化の期限を口にすることで、韓国を取り込み、対米交渉を有利に進めたい思惑がうかがえる。しかも11月の米中間選挙が近づくタイミングである。トランプ氏の歓心を買う狙いもあるのだろう。

 今回の南北会談が、したたかな金氏のペースで進められるとすれば心配である。文氏は金氏に対し、言葉だけの「非核化」ではなぜ国際社会が納得しないかを理解させなければならない。そして非核化の一歩として、核兵器や核物質、核関連施設などのリストを申告するよう説得すべきだ。

 北朝鮮の核開発の全容は明らかでない。核弾頭数は最大で60発との推計がある。関連施設や弾道ミサイルなどの保有量も不透明なままである。これでは非核化に向けた手順さえ明らかにならない。

 米国は、核施設の申告や査察の受け入れを早期に行うよう北朝鮮に求めてきた。これに対し、北朝鮮は信頼醸成の第1段階として朝鮮戦争の終戦宣言を先に進めるよう主張し、米朝協議は行き詰まった。

 再会談を実現するには、米国を納得させる回答が必要になる。金氏の言質を得られるかどうかが、文氏にとって今回の会談の試金石になる。

 南北関係の改善は北東アジアの緊張緩和にとって重要だ。しかし非核化の進展と歩調を合わせる必要がある。韓国側の訪朝団には今回、サムスン電子など四大財閥の幹部ら経済人も加わった。経済協力への本気度をアピールしたいのだろうが、前のめりになり過ぎるのは危うい。

 国連安全保障理事会の厳しい制裁は続いており、実質的な経済協力は不可能だ。制裁を解除するには国連の場で、国際社会の理解が広まることが欠かせない。結局は、北朝鮮が非核化に向けて具体的な行動を起こさない限り、経済協力をはじめとした南北融和の「成果」にはおのずと限界がある。

 文氏には、非核化への歩みを止めないためにも、粘り強く「仲介役」を務めてほしい。

(2018年9月19日朝刊掲載)

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