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社説・コラム

キーパーソンがゆく 湯町自治会自治会長(江津市) 盆子原温さん

有福温泉で毎年原爆展 被爆者と湯治 記憶守る

 江津市の有福温泉で毎夏、原爆の悲惨さを伝える企画展と追悼式典を開く。原爆被爆者有福温泉療養研究所「有福温泉荘」の閉鎖から12月で5年。「有福温泉の湯が被爆者を癒やしてきた歴史を風化させてはならない」と力を込める。

 同荘は1967年に開設。46年間で延べ83万7千人が利用した。しかし、被爆者の高齢化による利用者減少などで2013年末、閉鎖した。11年3月には、同荘に平和を願うハトのちぎり絵を贈るなど交流していた有福温泉小が児童数減少による統合で閉校した。「少子高齢化の波にのまれる」と危機感を覚えた。

 14年から毎年8月、原爆資料館(広島市中区)から借りた資料展示や原爆に関するビデオ上映の企画展を開く。準備には地元の小学生にも手伝ってもらい、歴史の継承に努めている。6日には追悼式典を開き、午前8時15分に地域住民がそろって手を合わせる。

 ただ、歴史を伝えるのは年々難しくなっていると感じる。毎年追悼式典に参加していた高齢の住民が体調不良で参加できなくなった。自治会の小学生は今年1人だけになった。

 それでも「今伝えなければ歴史は消えてしまう」と踏ん張る。閉鎖の際に同荘から湯町自治会に寄贈された、被爆者が湯の感想をつづったノートなどを基に、同荘の歴史や住民との交流をまとめた冊子の製作に取り組んでいる。

 自身も子どもの頃から温泉を訪れる被爆者と交流し、原爆や平和について身近に感じていた。「有福温泉は癒やし、交流、平和学習の三つの場だった。この記憶を守っていきたい」(下高充生)

ぼんこはら・たずね
 1949年、江津市生まれ。有福温泉小、跡市中、江津工高を経て、広島市の企業に就職。85年にUターンし、生活の拠点を江津市内に移した。2010年から湯町自治会の自治会長を務めている。

(2018年9月22日朝刊掲載)

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