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核廃絶後押し 法王に期待 被爆地訪問 切望の市民ら

「禁止条約批准 呼び掛けを」

 ローマ法王フランシスコが来年の訪日に意欲を示したことを受け、広島、長崎両市や被爆者団体が被爆地訪問への期待感を高めている。ローマ法王庁(バチカン)は核兵器禁止条約を批准しており、速やかな廃絶のため核保有国や日本政府などの批准を訴えてきた被爆地の後押しになり得るからだ。市民の側から、実現の機運を高める必要性を指摘する声も上がる。(水川恭輔)

 「大変喜ばしい。被爆地で平和のメッセージを発してほしい」。広島市平和推進課の松嶋博孝課長は、今月中旬、訪日の時期に触れた法王の意欲を歓迎する。

バチカンで要請

 市と広島県は昨年、訪問の呼び掛けを本格化した。1月にバチカンのギャラガー外務局長(外相に相当)が市を訪れ、実現可能性を示したのがきっかけ。5月は湯崎英彦知事、11月は松井一実市長がバチカンを訪れて法王に要請した。

 期待するのは、信者が約12億3千万人に上るというカトリック教会の世界的な影響力だ。1981年に広島を訪れた故ヨハネ・パウロ2世は約2万5千人が見守る中、原爆慰霊碑前で核兵器廃絶を訴える「平和アピール」を9カ国語で発表し、大きな反響を呼んだ。

 市は法王の訴えにも注目する。中南米地域の非核兵器地帯条約に加わるアルゼンチンの出身。国連で核兵器禁止条約の交渉が開始した時には歓迎の言葉を寄せた。昨年9月20日に署名、批准が始まると、バチカンは初日に応じた。

 法王は、核保有国や「核の傘」を求める国が条約反対の理由に挙げる核抑止力の必要性も、核使用の非人道性などから否定する。核による報復という脅しで自国の安全を守ろうとするのは「偽りの安心感を生むだけ」と批判している。

 「被爆地で、条約に入ろうとしない国に批准を呼び掛けてほしい」。日本被団協の箕牧(みまき)智之代表理事(76)=広島県北広島町=は願う。条約は50カ国の批准で発効し、今月20日現在15カ国。市とともに要請してきた長崎市の田上富久市長も「法王は禁止条約の必要性を後押しする意味で、非常に重要な存在」とみる。

見えぬ政策転換

 一方、日本政府も核軍縮の機運を高めたいとして、安倍晋三首相をはじめ法王の訪日を求めてきた。しかし、政府は禁止条約に署名、批准しないと明言。日本カトリック司教協議会社会司教委員会はことし3月、法王の発言を引いて署名、批准を求める要望書を政府に送ったが、政策転換の動きは見えない。

 それだけに被爆地訪問が決まっても、政府の「意味付け」を警戒する見方もある。市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」(HANWA)の森滝春子共同代表(79)は「署名、批准しないことはごまかし、訪日を核軍縮の取り組みのアピールのみに使いたいのではないか」と懸念する。

 その上で「禁止条約に貢献してきた法王が被爆地でさらなる推進メッセージを世界に発する。その意味での訪問を歓迎する市民の声をさらに高めることが重要だ」と指摘している。

(2018年9月24日朝刊掲載)

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