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社説・コラム

『やまびこ』 「あの戦争」 広島県北で刻む

 「ここからきのこ雲が見えたんよ」。今夏、複数の安芸高田市民から寄せられた声だ。証言を裏付けるように同市美土里町で住民が撮影した原爆投下直後に立ち上る雲の写真が高田郡史に残る。

 かつて中国新聞吉田支局(現・安芸高田支局)員だった先輩記者は郡史を閲覧中に写真を発見。県北で撮った貴重な史料として、1986年8月3日付本紙社会面に「不気味に膨らむキノコ雲」との見出しで報じた。

 先輩が支局に立ち寄られた際、そんな話を聞いた。手柄話をしたかったわけではない。「戦後から時間はたったが、まだ地方には伝えるべき史実が残っているのでは」との思いからだった、と思う。

 平成最後の夏が終わった。季節が秋へ移る途端に「あの戦争」の話題は薄れる。何を刻むことができたのか、また何を今後、刻めるのか―。県北の地で自問自答する。(山成耕太)

(2018年9月25日朝刊掲載)

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