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原発事故後の南相馬を報告 広島大客員教授 静間さんら出版

野菜や河川 放射線調査 「正確な数値と安心提供」

 放射線物理学の専門家で残留放射能の研究を手掛けてきた広島大客員教授の静間清さん(69)=東広島市=が、福島第1原発事故に見舞われた福島県南相馬市で約5年にわたって調査を続けた。その成果を、同市のNPO法人「ふるさと」事務局長、櫻井雄志さん(67)との共著で報告した。(増田咲子)

 出版したのは「メッセージ(1)」(幻冬舎)。静間さんと調査を共にした櫻井さんが体験をつづり、静間さんは調査活動をデータを用いながら紹介した。

 静間さんの調査は、広島大大学院工学研究院教授だった2011年9月に始まった。当時は同大が設置した環境調査チームの一員。参加した研究者の知人の縁で南相馬市を対象とし、16年末まで続けた。

 同市は原発事故現場の北にあり、20キロ圏内に市域が含まれる。帰還困難区域の一部を除いて2年前に避難指示は解除された。

 「住民に正確な数値と安心を提供したい」というのが静間さんの思いだった。同市の中央部に当たる原町区の試験農地で栽培された野菜の調査では、放射性物質のセシウム137が基準値よりはるかに低かったり、検出されなかったりした。

 また原町区では地下水が水源の水道水と井戸水の一部についても調査。セシウム137が基準値を大きく下回る濃度ながら検出された時期もあったが、16年には検出下限以下まで減少したという。

 一方で、原発事故現場から20キロ圏内を含む5河川の調査では、河口近くの河川敷で線量が高くなる傾向があった。静間さんによると大雨で上流から放射性物質が流れる際に河口近くで流れが遅くなるなどの理由が考えられ、除染の在り方への問題提起となった。

 静間さんは原爆で祖父を亡くし、父も入市被爆者。原爆投下後の黒い雨に含まれる放射性降下物(フォールアウト)の解明にも取り組む。「原発事故後も懸命に生きる人々が安心して暮らせるよう努力を続けてきた。放射線災害の知見を共有し、将来に残したい」と話している。

(2018年9月24日朝刊掲載)

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