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社説・コラム

社説 米朝首脳再会談へ 非核化の進展 大前提だ

 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の再会談が、実施に向け最終調整中という。トランプ氏が「日時と開催地を詰めている。近いうちに発表する」と述べた。停滞する非核化交渉を前に進めていくため、米朝首脳が会談を重ねることは不可欠で歓迎できる。

 心配なのは、トランプ氏が11月の中間選挙を前に外交成果を出そうと躍起になっているように見えることだ。安易に譲歩すれば禍根を残しかねない。「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」という大前提を見失わないよう、腰を据えた対応が求められる。

 6月の首脳会談は、長く敵対関係にあった両国の首脳が初めて会うだけで意味があったと言えよう。2度目となると、非核化実現の具体的なプロセスで合意しなければなるまい。事務レベルで入念に擦り合わせることが必要だ。

 初会談の後、両国の考えの隔たりの大きさが、はっきりしてきた。米国や国際社会が求めている北朝鮮の完全な非核化のためには、核兵器や核物質、弾道ミサイルの量や保管場所、核・ミサイル関連施設の場所など全ての情報をオープンにする必要がある。しかし北朝鮮は後ろ向きで、米国との信頼醸成の第一歩として朝鮮戦争の終戦宣言を急ぐように主張している。

 北朝鮮は「非核化」を口にするだけではなく、行動で示すべきである。豊渓里(プンゲリ)の核実験場に続き、寧辺(ニョンビョン)の核施設を廃棄する考えを条件付きで示した。しかし核物質をどれだけ取り出したのかなど、証拠を隠滅する思惑があるのでは、といぶかる声すら国際社会にあるのが現実だ。

 まずは全ての関連施設を明らかにして、査察を受け入れなければならない。そうしなければ、国際社会の疑念は晴れず、経済制裁も解除できない。

 米朝交渉の膠着(こうちゃく)状態を打開するきっかけは、首脳会談を含む南北の連携だった。金氏は韓国を通して、米国が「相応の措置」を取れば核施設の廃棄に応じる用意があることや、トランプ氏の1期目の任期内に非核化を目指す考えなどを示した。最終的な狙いである体制保証の確約を米国から引き出すには、一定の譲歩が欠かせないと理解しているのだろう。

 朝鮮半島の非核化と平和のため日本も努力が求められる。韓国や米国頼みではいけない。

 安倍晋三首相は、国連演説で拉致問題解決へ「相互不信の殻を破り、新たなスタートを切って、金委員長と直接向き合う用意がある」と述べた。核・ミサイル開発を強く非難し、圧力強化を訴えた1年前の演説とは様変わりした。

 拉致や核・ミサイル問題でけん制を続けながら、直接交渉の扉を開けていることを示したかったに違いない。3度目の南北首脳会談に続き米朝首脳の再会談が実現して南北の融和ムードが一層高まれば、「圧力路線」一辺倒だった日本にとって、厳しい状況になると判断したのではないか。

 朝鮮半島にだけ今も残る冷戦構造が終結すれば、中国やロシアを含めた北東アジアの平和と安定にもつなげられるはずだ。日本は被爆国として、非核化のうねりを朝鮮半島から北東アジアに広げる戦略を描き、実現を目指す先頭に立ちたい。

(2018年9月28日朝刊掲載)

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