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在韓被爆者手記 韓国で出版へ 救援する市民の会 31年前の本翻訳

非核化願い「子どもたちに」

 朝鮮半島の非核化が焦点となる一方、ヒロシマ・ナガサキの実態は韓国では十分知られていない。「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」(大阪府)は在韓被爆者の体験を小学生にも分かりやすく伝える本を来年4月ごろ、同国で出版する。1987年に会でまとめた手記集「ヒロシマへ…」の翻訳をベースにする。(桑島美帆)

 広島にいて被爆した同胞の被害を通じて韓国の反核の芽を育てようと、同会元広島支部長で被爆者の豊永恵三郎さん(82)=広島市安芸区=が企画した。一緒に在韓被爆者支援に取り組む安錦珠(アン・クンジュ)さん(55)=西区=が翻訳と編集を担当する。

 かつて豊永さんらが手掛けた手記集は日本の小中学生向けで、3人の証言を収録した。原爆で両親を失った李順玉(イ・スノク)さん、工場に動員中に被爆した崔英順(チェ・ヨンスン)さんと厳粉連(オン・ブニョン)さん(いずれも故人)。被爆体験に加えて帰国後、差別や貧困に苦しみながら生きた様子をつづった。

 この手記集の内容に加えて、日本の植民地支配で渡日する人たちが増えた経緯や、広島の地図、原爆の基礎知識などを盛り込む。母国に戻った被爆者が多く暮らす陜川(ハプチョン)に96年にできた原爆被害者福祉会館や、在韓被爆者への支援の経緯も伝える。

 豊永さんは「北朝鮮の非核化には、まだ時間がかかるだろう。子どもたちが被爆の原点を知り、核兵器廃絶への思いを持つきっかけにしたい」と願う。安さんも「韓国では原爆投下は祖国解放の契機と捉えられ、一人一人の被爆体験には目が向かない。時代に翻弄(ほんろう)され、壮絶な人生を送った同胞の体験と向き合ってほしい」と話す。

 同会は71年に設立。日本国内の被爆者と同等の医療支援を求める在韓被爆者の裁判や、渡日治療と被爆者健康手帳取得などを支援してきた。今回の出版は活動の一環で、ソウルの出版社で約千部を発行し、小学校や図書館に寄贈するほか、書店で販売する予定だ。

(2018年10月1日朝刊掲載)

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