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中電が保養所全廃へ 労組に提案 諸手当も削減

 中国電力が、松江、岡山、鳥取市にある3保養所の全廃や社員の諸手当の削減を検討していることが7日、分かった。原発停止による業績の悪化や、業界の高コスト体質への批判などを背景に経営の合理化を進める。

 中電が人事、労務、福利厚生などについて長期的な視点で見直すのは初めて。すでに労働組合に提案し、協議を始めている。コスト削減額は公表していないが、年10億円規模になる可能性がある。

 見直しを検討するのは計二十数項目。3保養所は健康保険組合の運営で、温泉施設などを備えグループ社員と家族が宿泊できる。かつては計6カ所あり削減してきたが、全廃して売却を目指す。

 時間外や年末年始などの賃金を割り増す諸手当も削減を検討する。社員が出張する際の宿泊代の上限は引き下げる方針。社員の住宅ローンの利子が年3%を超える場合、利子の超過分を支給する制度も廃止を目指す。

 中電は2004年ごろから人員削減などを進めてきた。東日本大震災後は島根原子力発電所(松江市)の再稼働が見通せず収益が悪化。13年3月期決算は280億円の最終赤字を見通す。今後も経営環境の悪化が続く可能性があるため、手厚い諸手当や福利厚生費を抜本的に見直す。

 中電は「電気事業を取り巻く状況を踏まえ、人事・労務諸制度を見直す方向性を組合に示した。今後、労使で新たな制度をつくり上げたい」。中国電力労組は「提案を受けた段階であり、コメントできない」としている。(東海右佐衛門直柄)

<中国電力が検討する主なコスト削減策>

保養所      ・3保養所の全廃、売却
諸手当・旅費  ・年末年始などの賃金割り増しを引き下げ
          ・出張時の宿泊費の上限を12000円から8500円に
福利厚生    ・社宅、寮入居者への住宅費助成を廃止
          ・3%を超える住宅ローンの利子を支給する制度を廃止
人事       ・転勤の規模を縮小

中電の合理化 業界独自の厚遇見直し 経営努力示す狙いも

 人件費削減など大幅な経営合理化策を検討する中国電力。燃料費や福利厚生費などのほぼ全てを料金に転嫁できる「総括原価方式」や地域独占体制をめぐって電力会社への批判が高まっており、経営努力を示す狙いもあるとみられる。

 「宍道湖を眼下に望む絶好のロケーション」。中国電力健康保険組合のホームページでは、今回廃止の検討が明らかになった保養所「松江荘」をこう紹介する。

 そのほか、見直し検討の対象となっているのは、福祉の向上を名目に特別管理職以外へ年5万5千円支給される「福祉助成金」や、時間外の諸手当、出張・転勤旅費、住宅ローンの優遇など二十数項目。「ほかの業界と懸け離れた手厚い制度が長年続いてきた」と同社幹部も認める。

 厚遇を支えてきたのは、電力会社が料金算定に用いる総括原価方式だ。人件費、燃料費、福利厚生費などのほぼ全てを電気料金に転嫁し、消費者が負担する仕組み。さらに地域独占体制で競争原理が働かず、業界の高コスト構造が長年続いてきたとされる。

 しかし東日本大震災を機に状況が一変。原発の停止で火力発電の燃料費が膨らみ、各社の経営環境は悪化した。東京電力の料金値上げで、業界の人件費が注目され、中電も制度の見直しを加速させる必要があると判断したとみられる。

 「『業界水準』で築いてきた労働条件を『一般企業水準』へ見直す。今ごろになって、と叱られるかもしれないが顧客の目線で抜本的に変えたい」とある役員は強調する。原発停止が長引けば料金値上げを迫られる可能性もあり、事前に身を削る姿勢を示す狙いもありそうだ。

 「値上げ(料金改定)を避けるためには抜本的な経営改革が必要」と三菱UFJモルガン・スタンレー証券(東京)の荻野零児シニアアナリストは述べる。国際的に割高な液化天然ガス(LNG)の購入費の引き下げや賃金の削減など「中電に見直しの余地は多い」と指摘する。(東海右佐衛門直柄)

春闘一時金の金額提示 中電労組は見送りへ ベア要求も 経営環境を考慮

 中国電力労組(白築透委員長、8436人)は7日、今春闘で一時金(ボーナス)の金額要求を見送る方針を決めた。2013年3月期決算の純損益が過去最大の赤字見通しとなり、経営環境が悪化していることを考慮した。(東海右佐衛門直柄)

 同労組が一時金の金額要求を見送るのは初めてとみられる。14日に正式に決定し、19日に会社側へ伝える方針。賃金のベースアップ(ベア)要求も4年連続で見送る。

 福島での原発事故後、電力業界を取り巻く環境が急速に悪化。島根原子力発電所(松江市鹿島町)の停止に伴い、代わりの火力発電の燃料費がかさみ、今期は最終赤字が過去最悪の280億円に達する見通し。今後の業績も不透明なため、具体的金額を提示せず、会社側には「一定の配慮」を求める。今後の運動方針は未定という。

 上部団体の電力総連もすでに、一時金の統一的な要求を見送る方針を決めている。中電労組は「経営の厳しさを考え、ぎりぎりの選択をした」としている。

 同労組は12年の春闘で、年間一時金は組合員平均(40・8歳)で174万円を要求。前期実績より4万円減の162万円で妥結した。

総括原価方式
 電力会社が電気料金を決めるのに使う算定方式。電気事業法に基づく。燃料費や人件費のほか寄付金なども含めた「原価」のほぼ全額を、利益を上乗せした上で料金に転嫁する。電力の安定供給のため利益確保が必要との考えに基づく。原価が過大に見積もられているとの批判があり、国は撤廃を検討している。

(2013年2月8日朝刊掲載)

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