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社説・コラム

『書評』 郷土の本 「ヒロシマをのこす」 原爆資料館をつくった執念

 原爆資料館(広島市中区)の初代館長、長岡省吾さん(1901~73年)の伝記「ヒロシマをのこす」を、福山市出身のノンフィクション作家佐藤真澄さん(東京)が刊行した。資料の収集と展示に注いだ長岡さんの執念を浮かび上がらせた。

 本書はまず、地質学者としての長岡さんに着目。原爆の惨禍を記録に残そうと焼け野原を歩き、熱線で表面が溶けた瓦や石をリュックに詰めて自宅に持ち帰った研究者としての日々を描く。

 その後、長岡さんは広島市の嘱託職員に。長岡さんの資料を基にして1949年、原爆資料館の前身である「原爆参考資料陳列室」が開設された。

 55年8月に原爆資料館が開館すると、長岡さんは館長に就任。被爆資料の寄贈を市民に呼び掛けるとともに、修学旅行で資料館を訪れるように全国の学校に働き掛け、精力的に動いた。

 佐藤さんは、長岡さんが石や瓦を集めて回った当時に手伝いをした人や、長岡さんの遺族に取材を重ねた。「長岡さんの情熱を知れば、原爆資料館の資料がより胸に迫るはず」と話す。

 1620円。汐文社。(治徳貴子)

(2018年10月7日朝刊掲載)

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