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社説・コラム

社説 日韓共同宣言20年 未来見据え 溝埋めよう

 日本と韓国が「未来志向の関係発展」をうたったパートナーシップ(共同)宣言を発表してから、20年の節目を迎えた。

 文化交流が進み、最近は円安や格安航空会社(LCC)の拡大も手伝って、人の往来はますます盛んになっている。一方で歴史認識の違いや、島を巡る領有権などの問題がくすぶる。日韓には今も深い溝が横たわっているというのが、両国民の偽らざる実感ではないか。

 どんなに時間がかかろうとも真の和解を諦めてはならない。それには1998年10月8日に出された共同宣言の精神に立ち返るべきで、そこに記された「包括的協力」に再び挑戦すべきだ。ある意味で好機と言えるのが北朝鮮の非核化だろう。

 南北融和を進めたい同胞の韓国はもちろん、この機を逃したくないのは日本も同じである。

 朝鮮半島の非核化は東アジアの平和や安定に欠かせない。金正恩(キム・ジョンウン)政権の方針転換が、拉致問題の解決につながることを願わずにはいられない。トランプ米大統領の影響力が大きいにせよ本来は日韓が手を携え、より主導的な役割を果たすべきだ。

 そのためにも20年前を思い返したい。かつての植民地支配に触れ「痛切な反省と心からのおわび」を表明したのは時の小渕恵三首相である。その3年前の村山富市首相による、いわゆる「村山談話」の表現を引き継いだ。その姿勢を当時の金大中(キム・デジュン)大統領もくみ取り、戦後日本の平和の歩みとともに評価した。

 65年の日韓基本条約で回復した両国関係を、次の発展につなげるのは「時代の要請」と金氏が述べた点にも目を向けたい。

 冷戦終結後、日本では自民党が下野するなど政治の流動化が進んだ。韓国も通貨危機に直面し、支援を求めた先は日本だった。2002年にサッカーのワールドカップ(W杯)の日韓共同開催を成功させたが、その関係は次第に冷え込んでいく。

 日本の「言論NPO」などによる最近の世論調査では、両国民とも半数近くが互いに良くない感情を持っているという。歴史問題が大きな理由に挙げられるが、政治にも責任があろう。

 今の政府がことさらあおるナショナリズムが外国人への偏見や蔑視につながっていると指摘される。書店に並ぶ「嫌韓本」や、在日コリアンへのヘイトスピーチ(差別的言動)がその表れだ。多様性を重んじる世界の流れや、人権保護の法律に反した言動を放置してはならない。

 韓国政府にも注文したい。いたずらに国内で反日感情をたきつけるのはやめてもらいたい。

 最近では、韓国が今週開く国際観艦式で、日本の自衛艦旗の旭日旗を揚げないよう求め、日本は不参加を決めた。98年と08年の観艦式では韓国は掲揚を認めていた。政治的な思惑による日本たたきは慎むべきだ。

 安倍晋三首相と文在寅(ムン・ジェイン)大統領は頻繁に両国を訪問する「シャトル外交」で腹を割って話し合い、関係発展につなげてほしい。首脳の背中を押し、逆戻りさせないためにも、国民同士で相互理解を深めていきたい。

 日本政府の有識者会議は先ごろ、青少年交流の拡大や、相手国での就職希望者の支援などを盛り込んだ提言をまとめた。日韓が互いに敬意を払い、違いを認め合えば、溝は徐々に埋まり「未来」が見えてくるはずだ。

(2018年10月10日朝刊掲載)

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