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社説・コラム

社説 米の臨界前核実験再開 これでは非核化迫れぬ

 昨年12月に米国が臨界前核実験を再開していたことがきのう分かった。臨界前核実験はトランプ政権下で初めてで、米国としては5年ぶりである。

 プルトニウムに爆薬で衝撃を与え、核分裂の連鎖反応が続く臨界にならないようにしてデータを得る実験だという。核爆発を伴わないものの、米の核安全保障局(NNSA)が「新設計の核兵器の有用性を確認できた」とコメントしているように、核開発の一環であることには変わりはないはずだ。

 被爆地の新聞として強く抗議の意思を示したい。ことし12月に別の新技術の性能を調べる実験を計画していると報じられたが、断固として中止を求める。

 トランプ政権は2月、新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を公表した。核兵器の使用条件を緩和し、小型核開発を盛り込んだ内容である。「使える核兵器」を目指し、それを誇示したのが昨年12月の実験だろう。朝鮮半島の緊張緩和を含め、世界の大勢に逆行しているとしか言いようがない。

 この5年間を顧みると、核廃絶へのうねりは確実なものになった。昨年7月、核兵器禁止条約が国連加盟国の3分の2に当たる122カ国の賛同で採択されたことが最も大きい。カナダ在住の被爆者サーロー節子さんの言葉を借りれば、核兵器は道徳に反する存在だったが、法にも反する存在になった。

 サーローさんと行動をともにし、採択に貢献した非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))にはノーベル平和賞が授与された。昨年は世界の反核運動にとって高かったハードルを越える飛躍の年だったといえるだろう。

 ところが、トランプ政権のNPRは、核兵器禁止条約について「非現実的な期待に基づく」と完全否定している。それどころか、米国も加盟する核拡散防止条約(NPT)体制の柱である包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准さえも、支持しない考えを明記している。

 自国や同盟国が究極の状況に直面した時に備えて、核兵器は万全の状態にしておく。それが米国の核政策だと考えていいだろう。「核兵器なき世界」を掲げ、広島の地で世界に向けて演説したオバマ前大統領の時代から変わっていない。個別の実験を指弾するにとどまらず、その核戦略を根本から問いただしていかなければなるまい。

 ことしはさらに、日本を含む北東アジアの情勢に大きな変化があった。南北首脳会談や米朝首脳会談を経て「朝鮮半島の非核化」に、糸口が見いだされたことだ。むろん北朝鮮の非核化の検証は難題だが、朝鮮戦争の終結も視野に入ってきたことは歓迎すべきことだろう。

 米国は核実験を継続しながら、北朝鮮に非核化を迫ることになる。それでは米朝協議の機運が後退する懸念もあろうに、つじつまが合うまい。

 一方で、日本政府は一貫して米国の臨界前核実験に抗議しない姿勢を貫いており、被爆国の外交とは思えない。トランプ政権のNPRについても「歓迎」の意向を示しているが、朝鮮半島情勢の変化などを踏まえるべきである。「同盟強化」の観点から、被爆国が米国の核戦略強化を歓迎し、支えることなどあってはならない。

(2018年10月11日朝刊掲載)

トランプ政権初の臨界前核実験 昨年12月 5年ぶり 核兵器願う国際世論に背

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