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被爆者自分史 志消えず 創刊20年 800編伝え終刊

 日本被団協元事務局員の栗原淑江さん(65)=東京都杉並区=が発行する月刊の小冊子「自分史つうしん ヒバクシャ」が創刊20年を節目に1月、240号で終刊した。全国の被爆者が半生を振り返る原稿を寄せ、原爆が人間を苦しめ続ける実態を伝えてきた。栗原さんは「被爆者の皆さんとのご縁を生かし、記憶継承に努めたい」と今後はNPO法人での活動に力を注ぐ。(岡田浩平)

 約640部を印刷した終刊号(B5判)はいつもの倍の50ページある。ある広島の被爆者は「高齢者の伝言」と題する自分史を寄せた。看護師として原爆投下後に広島で救護活動に当たり、戦後長く貧血や高熱などに苦しんだ経験を6ページにわたって記した。栗原さんの助言を受け、被爆者の自分史集作りに挑んだ広島の若者ら8人も継承への思いなどをつづった。

 「書く人・読む人の出会いの場に」。1993年2月の創刊号の見出しに託した栗原さんの思いだ。一橋大在学中に被爆者調査に参加。「被爆者が原爆と闘いながら生きてきた軌跡を残したい」と、約10年間勤めた被団協を辞め、冊子作りを知人に呼び掛けた。

 20年間で約200人が延べ800編を寄せた。被爆者自らが生きる意味を問い直したり、年上の被爆者の生きざまをより若い被爆者が学んだり、戦争を知らない世代が読んだり。「あの日だけでなく、その後の人生も追い、被爆者の心の苦しみや、原爆被害の深刻さを伝えてきた」

 ただ、2009年の200号ごろから、被爆者の高齢化で、人生を書いてもらう限界も感じた。設立に奔走してきたNPO法人ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会が11年12月に動きだしたこともあり、区切りをつけることにした。

 3月には終刊を記念し、購読者との内輪の集いを都内で開く。「自分史つうしんでつながった縁を生かして、今後は継承する会を母体に全国で体験を聞き取り、発信できれば」

(2013年2月11日朝刊掲載)

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