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社説・コラム

社説 辺野古 国の対抗措置 対話の道なぜ探らない

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設計画を巡り、政府はおととい、県による名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回への対抗措置を表明した。

 先の知事選で改めて「辺野古ノー」を明確にした沖縄県の立場から見れば、民意を踏みにじられた形に他ならない。

 わずか5日前、選挙で圧勝した玉城デニー新知事が官邸に安倍晋三首相を訪ね、移設反対を強く伝えたばかりである。

 首相は基地負担軽減に「できることは全て行う」と述べながら、このような対応である。なぜ沖縄の切なる叫びや訴えに寄り添い、対話による解決を探ろうとしないのか。

 「辺野古移設が唯一の解決策」と政府はかたくなである。かねて内政や外交など政策遂行でも「この道しか他にない」と異論に耳を貸さぬ首相の姿に、不誠実さを感じる国民は決して少なくないだろう。

 辺野古の工事が止まって、2カ月近い。8月に病気で亡くなった翁長(おなが)雄志(たけし)前知事の遺志を引き継いだ県が、埋め立て承認の撤回に踏み切ったからだ。

 沖縄への対抗措置を示したのは、今月上旬の内閣改造で就任したばかりの岩屋毅防衛相だ。行政不服審査法に基づいて石井啓一国土交通相に審査請求と、撤回の効力停止を申し立てた。

 これに「内閣による自作自演だ」と玉城知事が憤ったのには、もっともな理由がある。

 本来は、弱い立場にある国民が、行政機関から不利益を受けた場合の救済制度のはずだからだ。政府の対応は法の理念から逸脱していよう。「身内」の閣僚同士の判断に委ねるのも、公平・公正の観点からおかしい。

 3年前、翁長前知事による埋め立て承認「取り消し」の際も政府は同じ手続きを取り「制度の乱用だ」と批判された。法をねじ曲げても沖縄を服従させようとするのは、憲法で保障された地方自治をゆがめる行為だ。

 早ければ今月末にも、石井国交相は判断を示すとみられる。不思議なのは今月21日に那覇市長選の投開票を控えるタイミングで、政府はなぜ、反発必至の策を取ったのかである。

 先の知事選で与党推薦候補は辺野古問題に踏み込まず、争点隠しを図った。政府が今回、司法判断まで数カ月かかる裁判所への提訴を選ばなかったのは、開き直りとも取れる。あるいは移設を既成事実化して、県民の諦めを誘う狙いだろうか。

 玉城知事にとって民意の後ろ盾は大きい。国が工事再開を認めれば法廷闘争も辞さない構えという。ただ前知事の承認撤回は「最後の切り札」で、手詰まり感も否めない。頼みの綱の県民投票は、年明け実施に向け条例が近く可決される見通しだ。

 知事選を受け米紙ニューヨーク・タイムズは社説で「日米政府は妥協策を見いだすべきだ」と辺野古再考を促した。国と沖縄は溝を深めるのではなく、むしろ手を携えるべき時だろう。

 米軍絡みの事件や事故が起こるたび、日米地位協定の不平等さが指摘されている。玉城知事のみならず知事選で与党推薦候補も見直しを公約に掲げ、沖縄の声が反映される仕組みをつくるなどと主張していた。協定見直しは米軍基地を抱える日本各地の悲願でもある。「新時代沖縄」と玉城知事が訴えるように今こそ変革の好機である。

(2018年10月19日朝刊掲載)

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