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「原爆神話」情報操作の実態 広島市立大の井上教授 著書で迫る

 戦争を早期終結させた救世主として原爆を捉え、放射能の影響を過小評価するなどして、広島・長崎への投下を正当化する米国の「原爆神話」。広島市立大の井上泰浩教授の著書「アメリカの原爆神話と情報操作」は、その形成に深く関わったキーパーソン2人に着目し、知られざる情報操作の実態に迫っている。

 2人は、ニューヨーク・タイムズ紙記者だったウィリアム・L・ローレンスと、ハーバード大学長だったジェイムス・B・コナント。前者は、極秘だった原爆開発の全貌を見届けることを許可された「見返り」に、客観報道を装って政府の世論操作に加担する。後者は、第2次大戦中の陸軍長官で国民的信望のあったヘンリー・スティムソンに原爆投下の正当化論を書かせ、「正典」として定着させた陰の主役という。

 原爆投下を支持・肯定する意見が今も過半数を保つとされる米国。本書は「神話」の手ごわさとともに、神話で覆わなければ、米国民にとっても倫理的に耐え難い行為だったことを浮き彫りにし、「事実」の力と啓発に希望を見いだす。オバマ前大統領の広島演説に、その光が見えるという評価は興味深い。朝日新聞出版刊、1620円。(道面雅量)

(2018年10月19日朝刊掲載)

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