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社説・コラム

天風録 『核軍縮の分水嶺』

 胸襟を開いたわけではなかろうが、互いに耳を傾け尊重し合う信頼関係はあったのではないか。30年ほど前、幾度となく対話を重ねて「核戦争は勝てないし戦ってはならない」と確認し合った。当時のレーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ書記長である▲曲折がありなながらも、核軍縮の第一歩となる中距離核戦力(INF)廃棄条約の締結にこぎ着けた。「歴史の教科書には戦争の危機を除去する分水嶺(れい)として記されるだろう」。ゴルバチョフ氏は調印式で胸を張った▲核兵器を削減する史上初の条約だった。冷戦終結の布石となり、戦略兵器削減条約へと引き継がれた。もちろん「持つ国」の論理には限界があり、核軍縮が進んだとは言い難い。それでも一定の「歯止め」になってきたのは間違いない▲その歯止めを失えば、流れが変わる恐れもある。トランプ米大統領がINF廃棄条約からの離脱を表明した。ソ連から引き継いだロシアが条約を破っているからだそうだ。「米国だけが順守するつもりはない」という▲ロシアも「米国こそ条約違反」と応酬する。信頼関係は失われ、核軍拡競争を招きかねない。冷戦時代に後戻りするような分水嶺にしてはなるまい。

(2018年10月22日朝刊掲載)

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