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連載・特集

被爆地 もっと関心を インド・パキスタン核実験20年 両国の市民 原爆被害学ぶ

 インドとパキスタンが1998年に核実験を強行してから20年が過ぎた。核拡散防止条約(NPT)に加盟せずに核開発を進めてきた両国が持つ核弾頭数はこの間、大きく増えた。70年以上にわたり領有権を争うカシミール問題などを巡る二つの核保有国の緊張関係はなお続き、使用のリスクがなくなったわけではない。なのに北朝鮮の核が注目を集めるのに比べ、南アジアの核問題への関心は被爆地を含めて低下している。(増田咲子)

 広島市佐伯区の森滝春子さん(79)が世話人代表を務める「インド・パキスタン青少年と平和交流をすすめる会」が両国の若者をヒロシマに招く活動は、2007年が最後となった。印パの核実験競争を踏まえ、被爆地を舞台に相互理解を進めようと00年から5回にわたって行った。

 広島招待が転機となり、インドのウラン鉱山の放射線被害を発信するフォトジャーナリストになって再訪した人もいる。だが資金の問題や両国の対立が必ずしも「一触即発」ではなくなったとして08年以降、見送られている。森滝さん自身は広島での世界核被害者フォーラム開催などを通じて印パの核問題と向き合ってはいるものの「新たに芽を育て、核開発を否定する活動を、もっと伸ばさなければならない」と話す。

 その中で両国とも新たな取り組みが始まっている。パキスタンの画家ファウジア・ミナラさん(55)は広島のNPO法人ANT―Hiroshimaと一緒に、被爆10年後に白血病で亡くなった佐々木禎子さんをテーマにアニメーションづくりに取り組む。

 1羽の鳥が子どもたちを乗せて世界を巡る物語だ。生きたいと願って鶴を折り続けた禎子さんや復興した広島を紹介し、平和な世界をつくるにはどうすべきかを考える。

禎子さん題材

 「未来を生きる子どもたちに放射能の怖さを伝えたい」とANT理事長の渡部朋子さん(64)。05年に広島世界平和ミッション(広島国際文化財団主催)で同国を訪れ、ミナラさんと知り合った。06年には禎子さんを題材にした絵本を共同制作した。アニメはこの絵本を基にしたもので、英語版が完成したばかり。パキスタンで使われるウルドゥー語や、隣国アフガニスタンのダリー語やパシュトゥー語などにも翻訳する。ミナラさんは「両国とも自国の貧困層のためではなく核兵器開発に予算をつぎ込むことは悲しい」と言う。

絵本を舞台化

 一方のインドでも広島の原爆被害を伝える営みが始まった。原爆犠牲者の遺品に光を当てた絵本「さがしています」(アーサー・ビナード作)を基にした演劇である。2年前、福島市出身で同国在住の翻訳家菊池智子さん(48)がヒンディー語に翻訳。心を動かされた劇団「アビギャン・ナティヤ・アソシエーション」と舞台化の準備を進める。

 菊池さんは劇団メンバーに原爆について説明するなどして協力。来年3月、国際交流基金の助成を受けて上演し、学校でも披露したいという。「遺品の持ち主に思いをはせ、大切な日常を奪うのが核兵器だと感じ取ってほしい」と願う。

 そのインドを拠点に活動する反核運動家クマール・スンダラムさん(38)は「南アジア最大の問題は核兵器が実際に使われるとどんな被害が起きるか理解されていないこと。被爆者の体験はそれを変える力がある」と期待する。その願いに、現在の広島・長崎が十分に応えているとは言い難い。

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核保有 既成事実化進む 日本の非核外交 問われる

 インドとパキスタンの間では「限定核戦争」の危険すら指摘されてきた。保有する核弾頭数はここ10年で倍増。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計では、今年1月時点でインドが130~140(2008年1月時点で60~70)、パキスタンが140~150(同時点で約60)となっている。

 両国は1947年、英国から別々に独立した。その2カ月後には、北部カシミール地方の領有を巡って第1次印パ戦争に突入。これまでに計3回の戦争を繰り返している。

 インドの核開発はパキスタンだけでなく中国に対抗する意味もある。インドは62年の中印戦争に敗北。中国が2年後に核実験に成功すると、インドは74年に初の核実験を実施する。パキスタンはインドの核武装に対抗して核開発を進めた。

 NPT加入を拒み、さらには96年に国連で採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)にも背を向け核武装を続けた両国は、98年5月に相次いで核実験を実施。米国は経済制裁を科した。だが、01年の米中枢同時テロの後、対テロ戦争の協力などの名目で解除し、事実上、核保有を黙認しているとされる。

 さらに米国は08年、インドとの間で原子力協定を結んだ。続いて日本も日印原子力協定を締結し、インドという巨大市場への原発輸出が可能となった。NPTに未加盟の国には、原発分野でも協力しないというNPTの原則に反することから、「インドの例外扱い」はNPT体制を傷つけたという批判が上がった。特に日印原子力協定をめぐっては、広島でも「被爆国が核兵器保有を是認するに等しい」「被爆地の思いを踏みにじった」などと日本政府に対する反発が起こった。

 98年の印パ核実験の時、外務省軍備管理軍縮課にいた広島市立大広島平和研究所の福井康人准教授(軍縮国際法)は、NPTに未加盟で法的な縛りがないために両国の核弾頭数が増加していると考える。核兵器をもっと増強できる能力はあるが、政策的に行っていないだけだ、とも。カシミールを巡る緊張状態を悪化させないよう国際社会が努力するとともに「日本政府にもアプローチしてもらい、両国の高官や市民が広島で被爆の痕跡を見て、核爆発が起きたらどうなるかを実感してほしい」と言う。

(2018年10月22日朝刊掲載)

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