×

社説・コラム

社説 日中首脳会談 揺るがぬ互恵関係築け

 日本の首相として7年ぶりに中国を訪問した安倍晋三首相はきのう、李克強首相と会談し、経済や安全保障を含む幅広い分野の協力で合意した。習近平国家主席とも会談し、「新しい時代」の日中関係を構築することで一致した。

 両国関係は、2012年の日本政府による尖閣諸島の国有化などで一気に冷え込んだ。1972年の国交正常化以来最悪といわれた時期もあっただけに、関係修復に向けて前進したことは歓迎したい。

 背景には、中国に対して強硬な姿勢を強めるトランプ米政権の存在がある。米中貿易戦争が深刻さを増す中で、中国側には日本との対立を避ける狙いがあるのは間違いない。厳しい姿勢が際立っていた対日政策の修正に踏み切ったように映る。

 日本にとっても北朝鮮の核開発や日本人拉致問題の解決に向け、北朝鮮の後ろ盾となっている中国との連携強化が不可欠だ。安倍首相には来年の参院選などをにらみ、外交面で成果を得たい考えもありそうだ。

 それぞれの思惑があるにしても、首脳同士が顔を合わせ、率直に話し合う意義は大きい。東アジア地域の平和と安全のためにも、首脳間の相互訪問を定着させていくことが重要だろう。

 今回の会談では、先端技術協力と知的財産権保護を目的に協議する枠組みの設置で合意したが、その実効性は未知数だ。

 米国は、技術分野における中国の台頭を警戒している。日中の急接近をどう受け止めるのかは不透明だ。人工知能や自動運転などの分野で技術協力を進めれば、米国がさまざまな手段で介入してくる懸念がある。

 また約40年続いた中国への政府開発援助(ODA)を終了し、第三国でのインフラ投資推進を新たな経済協力の柱とすることも今回確認した。

 中国は米国に次ぐ世界第2位の経済大国に成長しただけに当然のことだ。これからは対等のパートナーとして協力していくのだろうが、第三国への開発支援は、中国が巨大経済圏の構築を目指して掲げる「一帯一路」構想と密接に関わる。

 中国にはインフラ投資などを通じて影響力を拡大させる意図があるとされる。多額な資金貸与が途上国の財政悪化や政情不安を招き、「新植民地主義」との批判もある。日本は慎重に対応を見定める必要があろう。

 安倍首相は会見で、「競争から協調へ、日中関係を新たな段階へ押し上げていきたい」と語った。互いに脅威にならない原則を確認し、自由で公正な貿易体制を発展させることでも一致したと強調した。

 ただ中国公船は尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返している。歴史認識を巡る対立も解消していない。北朝鮮の非核化を巡っても、対話重視の中国と圧力重視の日本とでは立場の隔たりが大きい。山積した課題は先送りされた感が否めない。

 加えて、これらの問題に対する国民世論は感情的になりがちだ。本当の意味で関係改善を図るには、国民同士の信頼関係を再構築しなければならない。

 来年には習氏の訪日も予定される。対話を粘り強く重ね、一歩ずつ距離を縮めていくしかあるまい。官民を問わず、さまざまなレベルで揺るがぬ互恵関係を築いていく必要がある。

(2018年10月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ