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連載・特集

活用 より幅広く 「学ぼうヒロシマ」6年目

 中国新聞社が広島県や山口県の中学生、高校生向けに毎年6月に発行する平和学習新聞「学ぼうヒロシマ」が、ことしも学校現場で活用されている。6年目の2018年版は被爆者たちの証言に加え、原爆や核兵器について若い世代に分かりやすく伝えようと内容をさらに深めた。教室での学習に加えて、より幅広く生かす取り組みも広がってきた。(増田咲子)

総合学習で「原爆投下なぜ」

廿日市・七尾中

 総合学習で原爆・平和をテーマとし、「学ぼうヒロシマ」を教材とした学校はことしも多い。

 廿日市市の七尾中は、1年生の総合学習のプログラム「ヒロシマ平和学習」を掘り下げるために使った。「なぜ原爆が広島に投下されたのか」「非核化はどうなっているのだろう」。7月の授業では、それまでの学習で考えた課題について生徒145人が答えを探した。

 さらに心に残ったことをまとめ、発表もした。核兵器の現状について学んだ生徒は「多くの国が核兵器を持っている。同じような被害が起きるかもしれない」と述べた。

 白水希琉(れある)さん(13)は掲載された被爆者の証言などを読み、「原爆に遭ってもめげずに生き、つらい思いを伝えてくれているのがすごい」と感想を話していた。

 1年生たちはその後、原爆資料館を見学して被爆者の生の声も聞いた。「学ぼうヒロシマ」で学んだことも含めて「平和は自分たちで」「未来へ」などの題字で新聞を作り、文化祭で掲示した。学年主任の多賀谷より子教諭(54)は「絶対に戦争をしてはならないという認識を深め、つないでほしい」。藤井哲也校長(58)は「小さなステップでもいい。平和のために行動してもらいたい」と願う。

平和公園 英語案内や碑巡り

広島中等教育学校 比治山女子中

 平和記念公園(広島市中区)でのさまざまな活動に生かす動きもある。

 「原爆ドームは被爆当時のまま残され、悲劇を伝えている」。安佐北区の広島中等教育学校の生徒たちはボランティア活動として夏休みの5日間、平和記念公園で外国人に英語でガイドした。

 高校1年に当たる4年生がガイドに向けた学習の一つとして使ったのが「学ぼうヒロシマ」だ。総合学習で被爆証言を読んで心に残った部分に線を引き、考えを述べ合った。英語の授業では証言の英訳を読んで外国人に手渡すメッセージカードの文章も考えた。

 斉藤光志さん(15)は「相手を敬う心が大切だと学んだ。同じ考えを持つ人が一人でも増えてほしい」と、「協力」をテーマにメッセージを書き、ガイドに臨んだ。久保田まゆみ校長(58)は「自分の言葉で平和について世界に発信し、異なる文化や価値観を持つ人たちと話し合えるようになってほしい」と言う。

 南区の比治山女子中の2年生44人は「学ぼうヒロシマ」の最後にあるワークシートを使って学んだ。さらに新聞を手に平和記念公園と周辺の碑を巡り、2018年版で大きく取り上げた「原爆の子の像」などを見学。像建立のきっかけとなった佐々木禎子さんをはじめ、同世代の子どもたちが原爆でどんな被害を受けたかをあらためて学んだ。

 武田万侑さん(13)は「原爆の子の像の碑文が心に突き刺さった。正しいこととそうでないことを見極め、平和な世界を築きたい」。同校で平和学習を担当する土井一生・教育研究部長(37)は「新聞や映像、碑巡りなど多角的な学びを通し、平和への思いをより強くできる」と語った。

証言読み手紙 交流紡ぐ

福山工業高

 「学ぼうヒロシマ」で証言を紹介した被爆者との交流につなげた学校もある。福山市の福山工業高の生徒は掲載した被爆者8人に手紙を書いた。現代社会を担当する祝迫直子教諭(49)が2年生約230人に授業で新聞を配り、呼び掛けた。

 生徒のうち49人が夏休みなどを利用して手紙をしたためた。「戦争は悲しみ、苦しみしか生まず、人々を幸せにすることは絶対にない」「どうすれば平和になるのかを考え、未来に伝えていく」「家族の大切さや今がどれだけ幸せなのかを学んだ」などとつづった。

 手紙は中国新聞社に託され、8人の元に届けた。原爆で両親と妹を亡くした多田信子さん(88)=安佐南区=は「原爆の悲劇があってはならないという思いを感じ取ってくれている」と丁寧に目を通していた。

 同校は今後の授業で、核兵器を巡る問題について自分なりの意見を持てるよう学習を深める。祝迫教諭は「手紙を書くことで『伝えてくださってありがとう』という気持ちが芽生える。生徒自身が第二の語り部になってほしい」と望む。

「学ぼうヒロシマ」とは

 「学ぼうヒロシマ」はタブロイド判、カラー24ページ。2013年から中国新聞社が広島国際文化財団の協賛を得て、中学生向けと高校生向けを発行している。ことしも合わせて約22万部を印刷し、広島県全域の中学・高校と、岩国市をはじめとする山口県東部の11市町の中学に、中国新聞販売所を通じて無料配布した。

 発行6年目を迎え、内容をさらに充実させた。建立60年の「原爆の子の像」や佐々木禎子さんについて詳しく学んでもらうほか、昨年制定された核兵器禁止条約の内容も分かりやすく解説。本紙の連載「記憶を受け継ぐ」で取り上げた被爆者のうち8人の証言を掲載し、うち2人については中学・高校向けに難易度を変えた英語の教材とした。

 ヒロシマ修学旅行の事前学習などに使うため送付を希望する中学、高校が全国各地で増えてきたため、8月にリニューアルした中国新聞社ヒロシマ平和メディアセンターのウェブサイトから、無料で紙面をダウンロードできるようにした。

(2018年10月29日朝刊掲載)

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