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社説・コラム

社説 韓国人徴用工 互いに溝埋める努力を

 韓国の最高裁はきのう、徴用工問題は「解決済み」とする日本側の主張を否定する判断を示した。考え方の違いが改めて突き付けられた格好だが、日韓両国は溝を埋めていく努力を忘れてはなるまい。

 植民地時代に日本で強制労働させられた元徴用工の韓国人4人が新日鉄住金に損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁は同社の上告を棄却し、賠償を命じた判決が確定した。

 戦後補償を巡る韓国での訴訟で、日本企業への賠償命令確定は初めて。同種の訴訟は他に14件あり、今回の判決を受け、日本企業の敗訴が相次ぎそうだ。

 植民地支配に関する韓国人の個人請求権問題について、日本政府は、国交正常化に伴う1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に」解決されたと主張してきた。韓国政府も2005年、元徴用工らの個人補償義務を負うのは韓国政府だと確認していた。政権が代わっても、徴用工問題は解決済みとの立場は踏襲されてきたはずだ。

 しかし最高裁は「個人請求権は協定では消滅していない」と判断した。長年にわたる両国の合意を踏みにじるものと言わざるを得ない。

 判断の背景には協定に対する韓国国民の不満があるようだ。尊重すべき国家間の請求権協定の中身を国民にきちんと説明してこなかった、韓国の歴代政権の責任は重いと言えよう。

 判決を受け、文在寅(ムン・ジェイン)政権は「司法の判断を尊重する」考えを示した。政府間の対立が深まることになれば、ただでさえ今ぎくしゃくしている両国関係が、さまざまな分野で悪化しかねない。従軍慰安婦問題を巡る前政権での日韓合意に否定的な文政権の姿勢は、日本側の不信感を募らせた。最近では、海上自衛隊の自衛艦旗の掲揚を巡って意見が対立した。

 日本政府はまず外交ルートでの解決を目指すべきである。韓国政府の出方を冷静に見守った上で、2国間協議や、仲裁委員会での議論、国際司法裁判所(ICJ)への提訴を考える必要があろう。

 北朝鮮の核開発・ミサイル問題解決のため、両国が連携を一層深める必要性は増している。互いに内向き志向を強め、いたずらに対立をあおるような事態は避けねばならない。

 政府間の合意を尊重するのは大切なことだろう。ただ、法の枠組みとは別の打開策がないかも考えてみたい。戦後補償という観点で見れば、戦争中の中国人の強制連行、強制労働を巡る問題の解決策がヒントになるのではないか。

 例えば、広島県安芸太田町の発電所建設で強制労働をさせられた中国人のケースがある。西松建設(東京)に損害賠償を求めたが、「個人の請求権は放棄された」との日本の最高裁の判断で07年に敗訴した。

 しかし「関係者に被害救済の努力を期待する」といった判決での異例の言及を受け、西松建設は09年に謝罪し、新設する基金への巨費拠出で和解した。

 16年には、三菱マテリアルが被害者団体と和解した。歴史的事実と使用者としての責任を認めて踏み切ったという。

 ともに人道的視点を持ったからできたのだろう。日韓両政府も、こうした例を参考に柔軟な対応策を探ってもらいたい。

(2018年10月31日朝刊掲載)

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