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原爆症認定制度 廃止か 見直しか 厚労省検討会 今夏めど最終報告

 厚生労働省の原爆症認定制度の在り方に関する検討会の議論が2年を超えた。被爆者援護法の改正によって認定制度を廃止し、新たな手当制度の創設を求める日本被団協の委員と、現行制度を前提にした見直しを主張する多くの委員との隔たりは大きい。今夏をめどに最終報告をまとめる方針だが、議論は根幹部分でもすれ違ったままだ。(岡田浩平)

 検討会が昨年6月にまとめた中間報告は、現行制度の改善を目指す方向を基本としつつ被団協の主張も併記した。これに沿い、9月に3案が示された。

 ①法令などで審査基準を客観化し、認定対象とする病気を増やす②認定制度を廃止し、全被爆者に「被爆者手当」を支給し、症状に応じて3段階で手当を加算する(被団協案)③原爆放射線と病気との関連(放射線起因性)を現状ほど厳しく問わない「グレーゾーン」を設け、段階的に手当を設定する―だ。①と③は現行制度の存続を前提としている。

 これまでの議論は被団協案(②)の是非が中心となってきた。田中熙巳(てるみ)事務局長は、放射線起因性を厳しく問う現行制度の延長では「残留放射線の影響を軽視することになり被爆の実態に合わない」と廃止を主張。専門機関が放射線との関連を認めた病気を政令などで定め、被爆者がかかれば手当を加算する仕組みを説く。

 しかし、他の多くの委員は被団協案に批判的だ。「起因性を無視してもいいのか」「他の戦争被害との区別がつかなくなる」…。残留放射線の影響についても荒井史男弁護士は「科学の進歩に期待するしかない」と基準への反映には否定的だ。

 これまでは、被団協の主張をめぐる応酬に終始。認定対象の病気を増やす判断基準や、原爆症に準ずる「グレーゾーン」の定義など他案について議論はほとんど進んでいない。

 この背景には、検討会の役割について、被団協側は制度の廃止も含めた抜本見直しにつながると受け止めたのに対し、検討会座長の神野直彦・東大名誉教授(財政学)らは、そこまでの権限は持たされていないとするなど、根本的な主張に隔たりがある。

 現行制度の存廃という、根幹部分の意見対立の溝は埋まらず、石弘光・一橋大名誉教授(財政学)は「一つの川を挟み、永遠に対岸に渡れない状況に陥っている」と指摘する。

 ただ、議論は、原爆症認定集団訴訟で国が相次いで敗訴したことを受けて始まった。「裁判によらず原爆症の問題を解決することが目指されているはず」と全国原告団長で被団協の山本英典事務局次長は訴える。

 そんな中、自民党の「被爆者救済を進める議員連盟」が先月発足した。2009年、麻生政権下で原爆症認定集団訴訟の原告全員救済に尽力した議員がそろう。山本事務局次長は「当時の国と被団協の考えをよく知る議員がいる。厚労省に被爆者問題の解決を迫ってほしい」と期待する。

 神野座長は今夏をめどに最終報告をまとめる方針。「委員間の共通認識と、埋まらない部分をそれぞれ書くことになるだろう。大臣が責任を持って判断できるよう参考基準をまとめたい」と話している。

原爆症認定
 原爆症認定集団訴訟で国が相次ぎ敗訴したのを受け、2008年4月から現行基準に見直された。被爆地点が爆心地から約3・5キロ以内▽原爆投下から約100時間以内に約2キロ以内に入市―などの条件で、がんや白血病、白内障など七つの病気を積極認定。ほかは個別に総合判断している。認定者には国が月額約13万7千円の医療特別手当を支給し、医療費も全額給付する。日本被団協は司法判断と国による認定結果になお隔たりがあると訴え、厚生労働省が10年12月に有識者による検討会を設置。12年12月まで18回開いた。

(2013年2月18日朝刊掲載)

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