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「黒い雨」詳細な解析を 放影研討論で研究者要望

 原爆投下後に降った「黒い雨」を浴びたとされる約1万3千人分のデータを保管していたことが判明した放射線影響研究所(放影研、広島市南区)が、健康への影響を問題視する研究者との討論に応じた公開シンポジウムが17日、広島市中区の原爆資料館東館であった。研究者からは「より詳しい解析を」との注文が放影研に相次いだ。

 日本ジャーナリスト会議広島支部の主催。放影研の大久保利晃理事長と小笹晃太郎疫学部長が登壇。がんになるリスクが高まる傾向は見られなかった、とのデータ解析結果をあらためて報告した。

 これに対し、広島大原爆放射線医科学研究所の大滝慈教授は、長崎で雨に遭った人は固形がんの死亡リスクが約30%高くなっていた点を挙げ「実態に合っていない。何か理由があるはずで解析を深めてほしい」と訴えた。

 データの存在を指摘した長崎県保険医協会の本田孝也会長は、爆心地から2キロ以遠でも急性症状とみられる重度の脱毛が確認された事例に言及。「初期放射線では説明できない」と黒い雨などによる内部被曝(ひばく)の影響を解明する必要性を強調した。

 大久保理事長は「できることはしたいが、黒い雨の影響を調べるためにデザインされた調査ではない」として、データに特化した研究の継続には後ろ向きな姿勢を示した。

 会場からは「放影研は被爆者のための機関であってほしい」との要望が相次いだ。大久保理事長は「気持ちは分かるが、研究は中立的な立場でないと信頼されない」と述べた。(田中美千子)

放影研の「黒い雨」データ
 1950年代から60年代初頭までの間、広島と長崎の約12万人に面接して聞いた質問に対する回答の一部。「原爆直後雨ニ遭イマシタカ?」の問いに約1万3千人が「Yes」と答えていた。大半が広島の人で、雨に遭った場所や脱毛、発熱など14種類の急性症状の有無と程度、発症時期なども尋ねている。データの存在は2011年11月に判明。放影研は12年12月、「がんリスクの上昇はない」とする解析結果を公表した。

(2013年2月18日朝刊掲載)

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