×

社説・コラム

社説 東海第2の延命策 老朽原発の不安拭えぬ

 「例外中の例外」が相次いでいる。稼働から40年の「寿命」を迎える原発の運転延長のことだ。茨城県東海村にある日本原子力発電(原電)の東海第2原発に対し、原子力規制委員会が最長20年の運転延長を認めた。

 福井県の関西電力高浜原発などに続いて4基目である。老朽原発の再稼働に、またも道を開いたことに強い違和感がある。

 政府は、原発の「寿命」を原則40年と制限し、運転延長は「例外中の例外」としてきたはずだ。東京電力福島第1原発の事故を教訓にしたルールで、国民との約束ではなかったか。規制委の相次ぐ延長認可に不安は拭えない。ルールの形骸化も招きかねず、受け入れ難い。

 釈然としない点は他にもある。原発30キロ圏の6市村と原電が今年3月に結んだ新たな安全協定を巡って、原電の副社長が先日取材に対し、「拒否権なんていう言葉は、協定の中にはどこにもない」と述べたことだ。

 この協定は、各方面から画期的と評されている。これまでは県と立地自治体に限られてきた再稼働の事前同意権を、30キロ圏にある水戸市など他の5市にも認めたからだ。原発の「地元」という定義を広げたのは全国初で、これこそ住民が望んでいる安全協定の形だろう。

 東海第2原発の30キロ圏には全国最多の96万人が暮らす。万一、大事故となれば広範囲が被災地となる。広域避難計画の策定が義務付けられている30キロ圏内の自治体には、再稼働に注文を付ける権利があるはずだ。

 協定には「事前協議により実質的に事前了解を得る仕組みとする」「6市村が納得するまでとことん協議を継続」と記してある。素直に読めば、事実上の「拒否権」と受け取れよう。

 原電は時期を見計らい、同意を求める方針らしい。しかし、6市村の間では再稼働の是非はもとより、事前同意権の解釈を巡っても溝が生じている。

 再稼働に反対を表明した那珂市長は「1市村でも反対すれば再稼働できない」と主張し、常陸太田市長も同様の考えだ。一方、地元の東海村長は「発電事業を認めた上で議論するための協定であり、拒否権はない」との見解を示している。その延長線で飛び出したのが、原電副社長による先の発言だろう。

 原電は、思い違いをしてはなるまい。協定の文言解釈に口を挟むのではなく、向き合うべきは東海第2原発に対する世間の不安と疑問ではないか。

 東日本大震災で津波被害を受けた原発で、しかも原子炉は福島第1と同じ沸騰水型である。どちらのケースでも前例のない再稼働に、周りの自治体が慎重になるのは当然といえる。

 今回の延長認可には「原電の組織を存続させるため」との見方もある。原電は所有する原発3基が停止中で、経営は悪化している。東海第2原発は稼働40年のリミットが今月末で、廃炉が迫っていた。

 再稼働には安全対策の工事が不可欠だ。ただ、約1800億円の資金を原電は自己調達できず、株主で売電先でもある東京電力や東北電力に支援を仰ぐという。福島事故を起こし、国の支援を受ける東電に他社を支える資格はあるまい。

 電力会社の損得勘定や原発延命よりも、最優先にすべきは地元住民の安全と安心である。

(2018年11月13日朝刊掲載)

年別アーカイブ