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連載・特集

[インサイド] 原爆惨禍 希薄な意識

広島・長崎巡り外国人不適切行動 歴史観の溝 指摘も

 米大リーグ(MLB)選手が平和記念公園(広島市中区)の風景に爆弾のイラストを挿入した動画をインスタグラムに投稿するなど、原爆を巡る外国人の不適切な行動が相次いでいる。なぜ、被爆地の悲しみを無視するような動きが続くのか。背景を探った。(東海右佐衛門直柄、馬場洋太、中川雅晴)

10月、平和記念公園内など5カ所で黒いスプレーによる落書きが見つかった事件では、書類送検された2人のブルガリア国籍の男が「広島に来た記念を残したかった」と供述した。

 その他、韓国の有名グループBTS(防弾少年団)の原爆Tシャツ騒動では所属事務所が謝罪。米国でヒット中の楽曲「タキ・タキ・ルンバ」では「尻が長崎のように爆発」という歌詞が波紋を呼び、削除された。

 「いずれも被爆地への意識の希薄さ、軽さが見える」と広島市立大広島平和研究所のロバート・ジェイコブズ教授(58)は指摘する。「特に落書きと動画投稿は、観光客として広島に来た興奮をそのまま表現したのだろう。被爆地の人々を傷つける意図がないまま、軽はずみに行動したようだ」とみる。

急速な観光地化

 騒動が相次ぐ背景に、広島の急速な「グローバル観光地化」があるとする。「米国のオバマ前大統領の広島訪問の後、外国人の間で広島が『人気スポット』となっている。訪問客が急増する中で、原爆犠牲者や戦争の苦しみを共有しようという意識が薄れているのでは」と指摘する。

 「外国人の意識が、時代とともに大きく変わったとは思えない。もともとの認識の差が、SNSが盛況となった現代社会だからこそ表に出やすくなったとの印象も受ける」と語るのは、高校生の頃から被爆者の聞き取りをしてきた広島女学院大2年岡田春海さん(19)。「SNSでは、発信側の意図とは異なる捉え方をされる場合がある。今後も同様のことが起きやすくなるのでは」とみる。

 BTSの騒動については、日韓の歴史観の溝を指摘する声もある。広島平和研究所の孫賢鎮(ソンヒョンジン)准教授は「韓国で、原爆投下や敗戦を経て植民地支配から解放されたと考えられているのは事実」と語る。一方で「今回のTシャツに描かれた原爆は日本の象徴にすぎず、広島を傷付ける意図はないはず。周囲の大人がBTSの影響力を利用し、日本の歴史認識を問おうとしただけではないか」。

日本人の中にも

 一連の騒動を機に、日本人も姿勢を問い直すべき―との意見もある。「外国人だから、という問題にしてはならない」と非政府組織(NGO)ピースボートの川崎哲(あきら)共同代表(49)は指摘する。「慰霊碑の前でピースサインをする日本の若者もいる。戦争体験が風化するに従い、被害者のことを思う想像力が薄れていることが原因」とみる。今年のシーズン開幕直後、マツダスタジアム(南区)でプロ野球ファンによる「原爆落ちろ」のやじも記憶に新しい。

 「『こんなことは、けしからん』で済ませるだけではいけない。軽い乗りで被爆地に来る若者や外国人にも、原爆の惨禍をどう奥深く伝えていくのか、被爆地は冷静に考えなければならない」と指摘する。

(2018年11月15日朝刊掲載)

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