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連載・特集

戦争の不条理訴え続け 周南・大津島の回天記念館50年

遺書や軍服1000点 眠る遺品 活用探る

 旧日本海軍の特攻兵器、人間魚雷「回天」の歴史を伝える周南市大津島の回天記念館が今月、開館から50年を迎えた。同館は無謀な作戦で命を奪われた若者の悲劇を通じ戦争の不条理を訴え続ける。一方、遺族から寄せられた遺品などは展示されていないものも多く、どう活用していくのかが大きな課題となる。(高田果歩)

 「死んでしまったのは優秀な若者ばかり。戦争は絶対にいけんと子どもたちに学んでほしい」。島に住む石丸八重野さん(85)は振り返る。戦時中に小学生だった石丸さんは回天の訓練基地の宿舎でトイレのくみ取りなどに従事させられた。夫の仕事の都合でいったんは島を出たが、約30年前に戻り記念館の休憩施設で働いた。

特攻出撃見送る

 また、古里の島で暮らしてきた石丸和子さん(90)は島内の回天の組立工場に女子挺身(ていしん)隊として動員された。二度と帰れない特攻へ出撃する若者を港から見送った。戦後は記念館で受付をするなど思い入れは強い。

 記念館で展示される遺影には顔見知りの搭乗員もいる。和子さんは「かわいそうで昔は遺影を見られなかった。島に住んでいても記念館に来る機会は少ない」と語り遺書などの展示品を見やった。

 記念館は1968年11月、回天の元搭乗員たちによる回天顕彰会が募金を集め開館。施設を旧徳山市(現周南市)に寄贈し、島民でつくる「大津島社会教育振興会」が30年間運営した。

 98年11月に旧徳山市が展示場の改修や研修室を増築するなどしてリニューアルオープン。以降は市教委、次いで文化スポーツ課が運営する。

 リニューアル後の入館者数は年平均で約1万6千人。現在31万人を超えている。最多の2006年度には約2万4千人が来館。大津島でロケをした回天の悲劇を描く映画「出口のない海」が公開された年だった。松本紀是(としゆき)館長は「来館者は老若男女さまざまでリピーターが多い。最近は留学生など外国人観光客も増えている」と話す。

 館内の記帳ノートには戦争のむごさを感じ取った来館者の感想が多くつづられている。一方で約千点ある所蔵品のうち、展示されているのは約200点にすぎない。遺族からは遺書や軍服など多くの遺品が寄せられているが、似た種類の物が多く、効果的な展示方法をつかみかねている。

全国に貸し出し

 市文化スポーツ課の三崎英和さん(62)は「施設自体が狭く、企画展や特別展ができない」と打ち明ける。

 同館にはいまも高齢の遺族が長年保管してきた遺品を持ち込む。全国の平和施設や企画展に貸すことも多い。三崎さんは「眠っている貴重な遺品の活用法を考えていきたい」と話している。

(2018年11月17日朝刊掲載)

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