×

社説・コラム

社説 防衛大綱の見直し 外交力で緊張緩和図れ

 日本を取り巻く安全保障環境の変化に対し、どのような防衛力が必要か。おおむね10年程度の指針となるのが「防衛計画の大綱(防衛大綱)」である。

 安倍晋三首相は5年ぶりの改定大綱を来月中に閣議決定する考えだ。併せて今後5年にわたる防衛費の総額などを記す「中期防衛力整備計画(中期防)」も見直すという。政府の有識者会議に沿い、自民、公明の与党は詰めの協議に入っている。

 装備品調達には巨額の予算が要る。国の財政健全化策との兼ね合いや、北朝鮮など東アジア情勢の冷静な分析が欠かせない。何より重要なのは、憲法に基づく自衛隊の大原則「専守防衛」との整合性である。

 政府・与党はまず国民の意見に耳を傾けるのが筋だろう。改定ありきの議論は許されない。

 その歴史は1976年の三木武夫政権にさかのぼる。米国と旧ソ連による冷戦期で、自衛隊の「存在による抑止」をうたった。冷戦終結や米中枢同時テロなど国際情勢の変化に合わせて改定を重ねてきた。今の大綱は第2次安倍政権が発足した翌2013年につくり、「日米同盟の抑止力」を根幹に据えた。

 わずか5年で見直すのはなぜか。最近の防衛費増大や装備品調達に関して大綱の枠をはみ出しているとの批判があった。後追い改定となった反省はもちろん、順序が逆になった経緯を説明する責任が政府にはある。

 そもそも現政権では防衛費の5兆円超えが当たり前となり、「聖域化」している感がある。これが国民にどう映るか。

 「限られた予算の中でどう配分するかをしっかり考えるべきだ」とは、小野寺五典・前防衛相の弁である。先週、座長を務める与党の作業部会の初会合が終わった後、記者団に強調してみせた。会合では国民の理解を得られる大綱とする方向性を確認したという。単なる決意表明で終わらせてもらっては困る。

 その点、防衛省が来年度予算の概算要求で2千億円超を求めた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の計画撤回を一里塚としたらどうか。

 当面の脅威とされた北朝鮮については米朝協議で核・ミサイル放棄が期待されるからだ。イージス・アショアがすぐに必要とは思えない。ましてや配備候補地の山口、秋田両県の地元住民らが反対していることも、重く受け止めねばなるまい。

 ただ今回の大綱改定には、米国第一主義を振りかざすトランプ米大統領の影がちらつく。兵器まで「バイ・アメリカン(米製品を買え)」と同盟国の日本や欧州諸国に圧力をかける。イージス・アショアも一例だ。

 米側の言い値をのまされる「対外有償軍事援助(FMS)」の契約手法からして納得がいかない。首脳同士の「蜜月」をことさら自賛するのではなく、安倍首相が示すべきは是々非々の姿勢だろう。

 「宇宙」「サイバー空間」など、政府は大綱改定で防衛範囲の概念を広げる考えらしい。米国がかねて力を入れてきた分野である。防衛費増大は、来年秋に消費増税を迫られる国民の理解をすんなりとは得られまい。

 防衛装備品と言っても、兵器である。「矛」をとがらせるのではなく、周辺国と友好関係を紡ぎ直し、緊張緩和を図る外交力を磨き直す時ではないか。

(2018年11月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ