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被爆前の中島地区 写真30点 カラー化完成 東大大学院の渡邉教授 広島女学院高が協力

 デジタル技術を用い、古いモノクロ写真に色を付ける取り組みを続ける東京大大学院の渡邉英徳教授(44)が、被爆前後の広島で撮影された約30点のカラー化を完成させた。広島女学院高(中区)の生徒と協力し、原爆で壊滅した旧中島地区を含めて、失われた街の姿や人々の日常がよみがえった。(山本祐司)

 広島県産業奨励館(現原爆ドーム)前にたたずむ幼い兄弟。廿日市市の浜井徳三さん(84)が写真を提供した。中島本町の理髪店が実家で自分は疎開して助かったが、修道中1年の兄玉三さんや両親、姉を失う。色の付いた写真を見て「悲しい記憶だったのに楽しい思い出に感じる」と喜ぶ。

 カラー化した半分が中島地区一帯のものだ。繁華街のにぎわい、遊ぶ子どもたち…。平和記念公園となった街が鮮やかに立体感を放つ。その効果を渡邉教授は「記憶の解凍」と呼び、戦争を知らない世代にも現実感を持たせる。

 昨年末から一緒に作業を進めたのは広島女学院高の署名実行委員会だ。「核廃絶!ヒロシマ・中高生による署名キャンペーン」や被爆証言のデジタルアーカイブ化、碑巡り案内といった活動の一環で、生徒7人が中心となった。被爆者や中島地区の元住民に色の再現のため聞き取りをした。

 中島地区の証言集をまとめ、今回の作業で住民たちを紹介したヒロシマ・フィールドワーク実行委員会の中川幹朗代表(60)は「技術の粋にとどまらず、10代と原爆を知る世代が共通の話題を持って会話する一つの機会を生んだ」と捉える。

 今月3日の同校文化祭でまず21点を展示した。中島本町にあった浄宝寺の花祭り行列の写真もある。色付けした1年平田摩耶奈さん(16)は「被爆前も自分たちと変わらない生活があり、原爆に奪われたことに気付いた」と話す。12月に東京である「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の全国フォーラムで活動を発表する。「根底にある核兵器廃絶の願いを同世代に伝えたい」と平田さん。

 完成した約30点は、23日から12月2日まで東区の広島テレビ放送本社のロビーでも展示される。期間中の土日は色付け体験のワークショップも開く。渡邉教授は「高校生と写真を提供した人が広島を脈打たせてくれた。この動きが広がれば」と期待する。

 渡邉教授のプロジェクト「記憶の解凍」は早稲田大の石川博教授たちが開発した人工知能(AI)技術を活用する。自然な色合いを学んだAIが写真に自動着色し、色が違う場合は提供者の話や資料から、画像加工ソフトで修整する。AI技術はウェブサイト(http://hi.cs.waseda.ac.jp:8082/)で公開している。

(2018年11月19日朝刊掲載)

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