×

ニュース

広島・長崎で聞き取り 核廃絶 被爆地の役割は マレーシアの大学院生 博士論文へ研究

 マレーシアの赤十字国際委員会(ICRC)に勤める傍ら、首都クアラルンプールのマラヤ大大学院で学ぶリリ・チンさんが広島、長崎両市を初めて訪問。核兵器廃絶を求める被爆地の役割について聞き取り調査した。数年後に博士論文にまとめることを目指す。(金崎由美)

 日本研究を志すチンさんはICRCの活動基盤でもある国際人道法の知識を通じ、非人道兵器を巡る世論に関心を寄せる。2年前、非政府組織(NGO)ピースボートの船旅でマレーシアに寄港した被爆者の証言会に参加。自分の指導教官が両市が進める「広島・長崎講座」の認定授業をしていることもあり、研究テーマを選んだ。

 核兵器廃絶を願う市民や被爆者の訴えが、日本の政策にどんな影響を与えているか。それを考えるために昨年は東京で日本被団協やピースボートの事務局を訪れ、2年目のことしは被爆地へ。広島平和文化センターの小溝泰義理事長や広島市立大の研究者と会い、中国新聞社にも足を運んだ。

 さらに日本反核法律家協会(JALANA)の会長を務める広島の佐々木猛也弁護士からも話を聞いた。埼玉県から駆け付けた事務局長の大久保賢一弁護士を交えて意見交換し、核兵器禁止条約の実現を目指して世界の法律家と長年連携していることや、被爆者援護と原発反対という活動目的について説明を受けた。

 チンさんは「被爆地に来ると、ヒロシマとナガサキの実体験が核兵器禁止条約を成立させた世界の反核意識の土台だと実感させられる」と話した。

 マレーシアは11年前には核兵器禁止条約の条約案を当時の潘基文(バンキムン)国連事務総長にコスタリカと共同提出するなど、核軍縮に前向きな国だ。それだけに禁止条約に反対する日本政府と、廃絶を願う市民、被爆者の溝が深まる現状をもどかしく感じている。「世界の人々は日本政府が発信する英訳された情報を多く得ており、それが日本の考えだ、と見られがち。市民の側の動きを包括的に捉えた研究成果を提示したい」とチンさんは意気込む。

(2018年11月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ