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検証 島根県予算案 原子力防災

立地リスク 対策は急務

 島根県が18日発表した2013年度当初予算案は、福島第1原発事故を受けた中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の防災対策などが柱となった。狙いと課題を検証する。(樋口浩二)

 島根原発の南約1キロに鹿島病院(同)が立つ。約170人の患者が入院しており、うち9割近い約150人が寝たきりのお年寄りだ。

 「福島と同じような事故が起きれば、逃げ切れるイメージは湧かない」。同病院の下瀬宏常務事務部長(58)は常々、こう考えている。

福祉施設に重点

 県は、一体で編成した12年度補正予算案も含め、災害時要援護者を抱える病院と社会福祉施設への防災対策に力を注ぐ。中でも、直ちに避難する必要がある原発5キロ圏の予防防護措置区域(PAZ)の4カ所に対し、放射性物質を防護する建物の改修費1億5千万円ずつを助成する方針だ。

 「屋内退避で時間が稼げありがたい」と下瀬常務は歓迎する。一方、最終的な避難を考えると「うちだけの努力では無理」との不安が拭えない。寝たきりの患者を運べるストレッチャーが乗る車両は4台しかない。

 在宅要介護者や社会福祉施設の入所者も含めた災害時要援護者は、事故の避難に備える原発30キロ圏に県内で約2万8千人が住む。だが避難先は未定。搬送手段の議論は始まってもいない。

 搬送手段の不備は、県が原発30キロ圏の鳥取県、両県6市と1月26日に開いた原子力防災訓練でも露呈した。貴重な手段とする自衛隊のヘリコプターが強風で運航を中止。原発の東5・5キロの介護老人福祉施設「ゆうなぎ苑」(松江市)では、入所者役の県職員を車両で避難させる訓練に終始した。

 「原発を国策で進める以上、避難対策には国が責任を持つべきだ」。大国羊一・県危機管理監は県の立場をこう表現する。13年度当初で21億7700万円(12年度比24・3%増)を積んだ原子力防災予算も、財源の大半は国の交付金が占める。県費は150万円と1%にも満たない。

国の構想見えず

 福島の事故からまもなく2年を迎える今。それだけに「安全な避難に向けた国のビジョンが見えない。いろんな対策が単発で下りてくる印象だ」。大国危機管理監は国のかじ取りに不満を募らせる。

 だが、安全な暮らしを望む県民にとって、県と国の業務の境は関係がないのも事実。「防災にお金をかけるなら原発ゼロ社会の実現を」(島根原発増設反対運動の芦原康江代表)との声もある。

 溝口善兵衛知事は18日の記者会見で「原発が立地する以上、事故のリスクはある」と強調。新年度にも迫られる稼働の判断にかかわらず防災対策を進める姿勢を示した。ならばまず国との連携を深め、実効性ある避難計画を県民に示す必要がある。

(2013年2月20日朝刊掲載)

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