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連載・特集

[Peaceあすへのバトン] ラジオパーソナリティー 中川真由美さん

復興支えた音楽を追う

 高校生の頃からずっとラジオが好きでした。大学を卒業して広島に戻り、念願の広島エフエム放送に就職。被爆地にある放送局の使命として、音楽を軸にして平和について考えてもらえるような番組作りを模索しています。

 今年の8月6日は、広島流川教会の牧師だった谷本清さんの生涯をたどる特別番組を放送しました。被爆体験のほか、戦後米国で核の悲惨さを訴えた講演活動、ケロイド治療のため渡米した原爆乙女への支援などを紹介しました。

 その中で取り上げたのが、1947年に流川教会のクリスマス音楽礼拝で合唱された「メサイア」です。今も歌われ続けているという感銘的なエピソードを聞き、今年5月に取材を始めました。

 作曲家ヘンデルが18世紀に生み出したこの大作は、聖書から歌詞を引用する形でイエス・キリストの誕生から受難、復活までを表しています。広く知られる「ハレルヤ」もこの曲の一部です。被爆から2年後、流川教会に米国から楽譜が贈られたことがきっかけで、男女混声の合唱隊がつくられ、復興を目指すヒロシマと重ね合わせ歌われたことが分かりました。

 中高生時代に管弦楽班に入りバイオリンを弾いた私も、クラシックは演奏する人と聴く人の心を静め、どんな状況でも受け入れられる存在だと考えています。原爆投下後の何もない中、食べ物や着る物も大事だったでしょうが、音楽が人々を「生きていこう」と勇気づけたのでした。

 谷本さんの家族にもインタビューし、「父」としての素顔も見えました。影響を受けて平和活動に力を注ぐ長女の近藤紘子さんからは「あなたが会う人へ私に代わって話して」、長男の建さんから「若い子たちに事実を伝えてほしい」と託されました。話を聞き、知ることから始めます。

 そんな自分ですが、実はある後ろめたさがあります。小学校の3年間、父の転勤で東京にいたため、広島の平和教育の肝心な部分を受けていないのです。もっとヒロシマを知らないと―。そんな気持ちが常にありました。

 入社してお昼のワイド番組を担当し、世代を超えたメッセージに広く耳を傾けるようになりました。結婚して長男を出産後、強まったのが「この子が生きていく未来が平和であってほしい」という願いです。番組「音楽は平和を運ぶ」のプロデューサーを経験。8月6日の平和記念式典の中継や特別番組の制作にも携わるようになりました。

 自分の孫の世代になって、広島に原爆が落とされたことさえ知られなくなるのでは、と心配しています。バトンをつなぐには、自分がまずその悲惨さを知らないとバトンを渡せません。言葉と音で紡ぐラジオ番組。その世界で自分なりに取り組んでいきます。(文・山本祐司、写真・田中慎二)

なかがわ・まゆみ
 呉市生まれ。広島大付属中・高、学習院大卒。04年広島エフエム放送入社。広島東洋カープの取材やワイド番組パーソナリティーなどを経て現在は毎週金曜の「柏村武昭のだんRUNラジオ」を担当。広島市中区在住。原爆の日に放送した「復興の祈り~牧師・谷本清が遺したもの~」は再構成し、12月20日深夜に放送する。

(2018年11月26日朝刊掲載)

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