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震災通し閉鎖社会を問う 広島出身の杉野希妃主演映画 来月9日から八丁座

 広島市南区出身の女優、杉野希妃(きき)(28)主演の映画「おだやかな日常」(内田伸輝監督)が、3月9日から広島市中区の八丁座で公開される。杉野は代表作「歓待」(2010年)同様、プロデューサーとしても参画。東日本大震災を通して見えた閉鎖的な社会の実態を、重厚な脚本と鬼気迫る演技で問う。(伊東雅之)

普遍的テーマ 海外で評価

 物語は、地震発生の瞬間から始まる。被災地の原子力発電所からは放射能が漏れだし、サエコ(杉野)が暮らす東京でも検出される。政府の見解とは裏腹に事態を危ぶむインターネット情報。不安に駆られるサエコは娘が通う幼稚園に必死に放射能対策を訴える。だが、他の母親たちからは「あなたが不安をあおっている」と責められ、サエコは一人孤立していく。

 実は、サエコも、彼女に文句を言う母親友達も、両者の間で心揺れる別の母親も、杉野の思いを基に生まれたキャラクター。「いろいろな職業、国籍、社会的背景を持つ人々が集まる東京。多くの人の視点があった方がいいと思って」と杉野は語る。「それぞれの思いに善悪があるとはいえないし、確かに自分もいろんな意見に共鳴していた」と当時を振り返る。

 では、母親同士の激しい口論や徐々に表情を失っていくサエコに込めた思いとは―。「『歓待』とも通底するが、違う価値観を持つ者が変わり者扱いされ、疎外されていくことへの疑問。決して間違ったことを言っているわけではないのに」

 「歓待」では、同じ社会に暮らす外国人を色眼鏡で見る閉鎖的な風潮をテーマにした。大勢からはみ出た者への疎外が描かれる点で両作品は共通する。「今回は震災後を扱っているが、この種の問題は決して震災に限った話ではないのです」

 そうした社会性や普遍性も評価され、既にオランダ、韓国、スイスなど6カ国の映画祭でも上映。「出演者兼製作者として、世界を視野に入れた作品づくりを続けたい」。今後も追究したいという「枠を超える」こだわりを込めて。

(2013年2月23日朝刊掲載)

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