社説 原発事故と賠償法 責任の所在 明確にせよ
18年12月6日
原発事故などが起きた際の賠償の仕組みを定めた原子力損害賠償法の改正案が、きのう参院本会議で可決され、成立した。
現行法は、原子力事業者が支払うべき賠償金(賠償措置額)を最大1200億円と定めている。東京電力福島第1原発事故が甚大な被害を及ぼしたのを受け、今回の改正では賠償金の額を大幅に引き上げる必要性が指摘されていた。しかし見送られた。賠償手続き方針の公表を電力会社に義務付けるなど、微修正にすぎない内容となった。何のための見直しだろうか。
福島の事故に伴う賠償金は、既に8兆円を超えている。除染費用も4兆円に上る。1200億円では全く足りないことは明らかだ。備えが十分でないにもかかわらず、「世界最高水準」の規制だと強調して原発の再稼働を急ぐ政府や電力会社の姿勢は、あまりに無責任だ。
電力会社をはじめとする原子力事業者が支払う賠償金は、同法が制定された1961年には最大50億円だった。その後ほぼ10年ごとに法改正がなされ、額も引き上げられて賠償義務が強化されてきた。
前回2009年の改正では、600億円から倍の1200億円になった。99年に茨城県東海村の核燃料加工会社で起きた臨界事故の賠償額が、想定を大きく超えたことを受けた措置だった。こうした流れから考えても未曽有の原発事故を経験した後の今回は、賠償額を大幅に引き上げるのが当然ではないか。
福島の事故では、現行法の枠を超えた分の賠償金の資金を国が一時的に肩代わりし、原発や関連施設を持つ電力会社が資金を提供する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」を新設し、貸し付ける仕組みを作った。
しかしこの制度によって、東電が責任逃れをしているとの強い批判もある。今年3月の会計検査院の報告によると支援機構を通じて支払われた賠償金のうち、東電が負担する分は、最大でも4割台だという。
問題は、賠償法が原発事故などの責任の所在をうやむやにしていることではないか。同法では、原子力事業者に損害賠償責任があると整理されている。だが、損害が賠償金の額を超える場合には、政府が「必要な援助を行う」ともしており、最終的な責任の所在がはっきりしない。かねて指摘され、今回の改正でも、専門家たちからは責任がより明確になるような改正を求める声も上がっていた。それでも仕組みはそのまま維持されることになった。
福島の事故の賠償を巡っては被災者の早期救済を目的とした裁判外紛争解決手続き(ADR)で、国の原子力損害賠償紛争解決センターが示した和解案を、東電側が拒否するケースが相次いでいる。そのため被災者が個別に訴訟に踏み切らざるを得ない状況になっている。
環境NGOや市民団体などは、原子力事業者に和解案を受け入れる義務を課すなど被害者保護の強化も求めてきた。しかしそれも改正法には盛り込まれてはいない。国はこうした賠償を巡る現状を、深刻に受け止めなければなるまい。
ひとたび原発事故が起きれば被害者への賠償に加え、除染や廃炉でも、巨額の費用が必要となる。国は原子力政策を抜本的に見直すべきである。
(2018年12月6日朝刊掲載)
現行法は、原子力事業者が支払うべき賠償金(賠償措置額)を最大1200億円と定めている。東京電力福島第1原発事故が甚大な被害を及ぼしたのを受け、今回の改正では賠償金の額を大幅に引き上げる必要性が指摘されていた。しかし見送られた。賠償手続き方針の公表を電力会社に義務付けるなど、微修正にすぎない内容となった。何のための見直しだろうか。
福島の事故に伴う賠償金は、既に8兆円を超えている。除染費用も4兆円に上る。1200億円では全く足りないことは明らかだ。備えが十分でないにもかかわらず、「世界最高水準」の規制だと強調して原発の再稼働を急ぐ政府や電力会社の姿勢は、あまりに無責任だ。
電力会社をはじめとする原子力事業者が支払う賠償金は、同法が制定された1961年には最大50億円だった。その後ほぼ10年ごとに法改正がなされ、額も引き上げられて賠償義務が強化されてきた。
前回2009年の改正では、600億円から倍の1200億円になった。99年に茨城県東海村の核燃料加工会社で起きた臨界事故の賠償額が、想定を大きく超えたことを受けた措置だった。こうした流れから考えても未曽有の原発事故を経験した後の今回は、賠償額を大幅に引き上げるのが当然ではないか。
福島の事故では、現行法の枠を超えた分の賠償金の資金を国が一時的に肩代わりし、原発や関連施設を持つ電力会社が資金を提供する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」を新設し、貸し付ける仕組みを作った。
しかしこの制度によって、東電が責任逃れをしているとの強い批判もある。今年3月の会計検査院の報告によると支援機構を通じて支払われた賠償金のうち、東電が負担する分は、最大でも4割台だという。
問題は、賠償法が原発事故などの責任の所在をうやむやにしていることではないか。同法では、原子力事業者に損害賠償責任があると整理されている。だが、損害が賠償金の額を超える場合には、政府が「必要な援助を行う」ともしており、最終的な責任の所在がはっきりしない。かねて指摘され、今回の改正でも、専門家たちからは責任がより明確になるような改正を求める声も上がっていた。それでも仕組みはそのまま維持されることになった。
福島の事故の賠償を巡っては被災者の早期救済を目的とした裁判外紛争解決手続き(ADR)で、国の原子力損害賠償紛争解決センターが示した和解案を、東電側が拒否するケースが相次いでいる。そのため被災者が個別に訴訟に踏み切らざるを得ない状況になっている。
環境NGOや市民団体などは、原子力事業者に和解案を受け入れる義務を課すなど被害者保護の強化も求めてきた。しかしそれも改正法には盛り込まれてはいない。国はこうした賠償を巡る現状を、深刻に受け止めなければなるまい。
ひとたび原発事故が起きれば被害者への賠償に加え、除染や廃炉でも、巨額の費用が必要となる。国は原子力政策を抜本的に見直すべきである。
(2018年12月6日朝刊掲載)