進む機種転換 騒音懸念 米艦載機岩国移転遅れの陰で 中国地方自治体
13年2月25日
米海兵隊岩国基地(岩国市)への米空母艦載機の移転時期が、予定の2014年から3年程度遅れる。その一方で移転合意後、艦載機の機種転換などが進んでいることが指摘されている。岩国基地に関連する自治体や市民は、移転合意後のさまざまな変化や移転関連工事の内容などに注視し続ける必要がある。(編集委員・山本浩司)
日米両政府は、06年に在日米軍再編のロードマップ(行程表)で合意。その中で、米海軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地への空母艦載機59機の移転時期を「14年まで」としてきた。
しかし1月下旬、政府は山口県と岩国市に「移転が3年程度遅れる」(左藤章防衛政務官)と伝えた。理由は愛宕山地域開発事業跡地(岩国市)への米軍住宅建設計画の変更だという。同跡地へ建設するはずだった米軍住宅のうち約790戸を、基地内に建設する必要が生じたためだ。
中国四国防衛局のホームページには昨年12月以降、基地内への低層・一戸建て住宅建設工事の入札案内が急増しており、説明を裏付ける。この遅れにより、基地騒音軽減という悲願の実現が先延ばしにされた厚木基地周辺住民の落胆は大きい。
神奈川県大和市は「市民は移転によって騒音軽減など大きな変化を期待している。県などで組織する厚木基地騒音対策協議会を通じ、国に対して基地周辺の実情を認識し、予定通り14年までに移転することを求めた」(基地対策課)という。
また、厚木基地問題に取り組む相模原市の金子登貴男市議は「移転による騒音軽減が遅れるだけでなく、艦載機による厚木周辺の負担は移転合意後、じわじわと増えている」と指摘する。
まず11年5月の部隊交代で、艦載のFA18ホーネット49機全てが、従来型より騒音が大きいといわれる、スーパーホーネットに転換された。次いで昨年3月、電子戦機EA6Bプラウラー4機が最新のEA18Gグラウラー6機に更新された。
同型機もスーパーホーネットの派生型。在日米海軍司令部はプラウラーより騒音が大きいことを認めている。これで移転予定の艦載機は59機から61機に増え、うち55機がスーパーホーネットだ。
岩国市など中国地方の関連自治体と住民は、移転遅れの陰で進むこうした運用面の変化に注視し続けねばならない。移転実現時に予想もしなかった負担を強いられる可能性が高いからだ。
「岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会」の坂本千尋事務局長は「住宅が不足することは10年9月の計画変更時点で分かっていたはず。住宅整備だけが移転遅れの原因かどうか検証も必要」と指摘する。
中国四国防衛局は「施設の整備は当事者間の協議を経て必要と判断したものに限っている」というものの、坂本事務局長は「米軍側がこの際、なにもかも日本側に整備させようとしているのではないか」と疑問視する。
今後、移転までにさらに艦載機の運用面での変更が生じる可能性もある。加えて、艦載機移転に伴う基地内などへの設備の整備状況、移転後に予想される騒音データ、恒常的な着艦訓練施設の場所選定状況など、国からの情報提供は十分とはいえない。岩国基地に関連する自治体は窓口を一本化し、情報提供を国に強く求める必要があろう。
スーパーホーネット
旧型を全面設計変更し、エンジンや翼を大型化した最新鋭戦闘攻撃機。単座のE型と複座のF型がある。総重量約30トン。
グラウラー
プラウラー後継の電子戦機。搭載機器が近代化され、乗員はプラウラーの半分、2人になった。
(2013年2月24日朝刊掲載)
日米両政府は、06年に在日米軍再編のロードマップ(行程表)で合意。その中で、米海軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地への空母艦載機59機の移転時期を「14年まで」としてきた。
住宅計画の変更
しかし1月下旬、政府は山口県と岩国市に「移転が3年程度遅れる」(左藤章防衛政務官)と伝えた。理由は愛宕山地域開発事業跡地(岩国市)への米軍住宅建設計画の変更だという。同跡地へ建設するはずだった米軍住宅のうち約790戸を、基地内に建設する必要が生じたためだ。
中国四国防衛局のホームページには昨年12月以降、基地内への低層・一戸建て住宅建設工事の入札案内が急増しており、説明を裏付ける。この遅れにより、基地騒音軽減という悲願の実現が先延ばしにされた厚木基地周辺住民の落胆は大きい。
神奈川県大和市は「市民は移転によって騒音軽減など大きな変化を期待している。県などで組織する厚木基地騒音対策協議会を通じ、国に対して基地周辺の実情を認識し、予定通り14年までに移転することを求めた」(基地対策課)という。
また、厚木基地問題に取り組む相模原市の金子登貴男市議は「移転による騒音軽減が遅れるだけでなく、艦載機による厚木周辺の負担は移転合意後、じわじわと増えている」と指摘する。
まず11年5月の部隊交代で、艦載のFA18ホーネット49機全てが、従来型より騒音が大きいといわれる、スーパーホーネットに転換された。次いで昨年3月、電子戦機EA6Bプラウラー4機が最新のEA18Gグラウラー6機に更新された。
同型機もスーパーホーネットの派生型。在日米海軍司令部はプラウラーより騒音が大きいことを認めている。これで移転予定の艦載機は59機から61機に増え、うち55機がスーパーホーネットだ。
想定外の負担も
岩国市など中国地方の関連自治体と住民は、移転遅れの陰で進むこうした運用面の変化に注視し続けねばならない。移転実現時に予想もしなかった負担を強いられる可能性が高いからだ。
「岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会」の坂本千尋事務局長は「住宅が不足することは10年9月の計画変更時点で分かっていたはず。住宅整備だけが移転遅れの原因かどうか検証も必要」と指摘する。
中国四国防衛局は「施設の整備は当事者間の協議を経て必要と判断したものに限っている」というものの、坂本事務局長は「米軍側がこの際、なにもかも日本側に整備させようとしているのではないか」と疑問視する。
今後、移転までにさらに艦載機の運用面での変更が生じる可能性もある。加えて、艦載機移転に伴う基地内などへの設備の整備状況、移転後に予想される騒音データ、恒常的な着艦訓練施設の場所選定状況など、国からの情報提供は十分とはいえない。岩国基地に関連する自治体は窓口を一本化し、情報提供を国に強く求める必要があろう。
スーパーホーネット
旧型を全面設計変更し、エンジンや翼を大型化した最新鋭戦闘攻撃機。単座のE型と複座のF型がある。総重量約30トン。
グラウラー
プラウラー後継の電子戦機。搭載機器が近代化され、乗員はプラウラーの半分、2人になった。
(2013年2月24日朝刊掲載)