×

社説・コラム

『潮流』 あるIターン者の決意

■防長本社編集部長 広田恭祥

 「火山の恵みの地下水に影響が出てからでは遅い。ボーリングは認められない」。眼光に力がこもる。萩市北東部、旧むつみ村の溶岩台地である東台。ここに最新鋭のミサイル基地を造る防衛省の計画に、異議を唱える住民の会代表の森上雅昭さん(63)は話す。

 先週、防衛省から現地のボーリング調査を始めると電話があった。地盤の強度や地層を調べるためだが、同会や自治会は地下水の由来を知る水の年代測定を優先するよう求めていた。ところが同省は掘削と並行するとして先を急ぐ。「なぜ段階を踏めぬのか」と住民側が憤るのも無理はない。

 日米艦船の迎撃ミサイルシステムのレーダーと発射台を陸上に造る「イージス・アショア」。政府が北朝鮮情勢を理由に巨額の配備計画を閣議決定したのは1年前だ。2基新設とし場所の公表はなかったが、萩市の陸上自衛隊むつみ演習場と秋田市が浮上。住民は寝耳に水だったに違いない。

 森上さんは15年ほど前、三次市での肉牛生産に区切りを付け、萩城下近くの古民家に家族で移り住んだ。両親の介護を終え、昨年ようやく落ち着いたばかりだった。「好きで来た萩にミサイル基地を造るという話。不安で、緊張した」

 一から調べ、電磁波の専門家を見つけて講演会を開いた。「萩の自然も歴史も壊れるのではないか」との訴えに、老若の仲間が増えていった。防衛省が萩市を最適候補地としたのは半年後の6月。住民の会は「自治と自由を守る」すべを話し合った。署名を集め、誰もが納得できる説明を国に求めていくと決めた。

 「新たな基地ができればどれだけの人生が変わってしまうのか」と、森上さんは案じる。国が戦後、沖縄にどう向き合ってきたかも学んでいるという。地域の声を上げようとの決意は必ず、足元の自治を確かなものにするはずだ。

(2018年12月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ