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収集資料デジタル化 ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会 発足7年 体験記のサイト開設へ

 NPO法人ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会(東京)が、この7年間に集めた原爆関連資料のデジタル化を進めている。インターネット上に残し、被爆者の記憶の継承に役立てるためだ。近く、データ化した体験記の一部を、独自の見せ方で紹介するウェブサイトを開設する。一方で資料の原本を保管し、公開できる施設の設置も目指す。(田中美千子)

 継承する会は2011年12月の設立後、被爆者の証言や運動の記録を集めてきた。このうち、全国の被爆者団体が発行した約400冊の体験記集を先行的にデジタル化する。今秋、東京大大学院の渡邉英徳教授の監修で、一部を紹介するウェブサイトのシステムを完成。年度内の公開を目指している。

 サイトは、インターネット上の立体地図を利用。地図上に浮かぶ被爆者の顔写真を選ぶと、体験記や証言映像など登録した情報が出てくる仕組みだ。

 渡邉教授はネットの地図を使い、被爆者の証言を広島、長崎の被爆地点の上に配する「ヒロシマ・アーカイブ」「ナガサキ・アーカイブ」を手掛けた実績がある。今回は被爆地点ではなく、被爆者が戦後を生きてきた場所に証言を重ねる。

 「原爆は広島、長崎の問題、とのイメージを消したかった」。長崎市出身の被爆3世で、同会の岡山史興理事(33)は説明する。「自分の町に住む被爆者の生きざまを知れば、身近な問題に感じやすいはず」とみる。

 また、関心を高めようと、デジタル化に当たるボランティアも募集した。さいたま市内の資料が保管されている一室に、学生、主婦たち8人が月2回ほど集まり、体験記をスキャナーで読み込む作業を進めている。

 広島市佐伯区出身の大学生並川桃夏さん(20)=東京都=は、広島女学院高在学中にヒロシマ・アーカイブの拡充に取り組んだ経験から、ボランティアに志願した。「上京後、核問題への意識に被爆地との温度差を感じていた。このサイトなら、学生も関心を持ちやすいと思う」と期待する。さいたま市のパート従業員小沢美奈さん(34)は「参加して良かった。手記を読み、原爆被害は生涯にわたって人々を苦しめるのだと教えられた」と語る。

 サイトには手記を閲覧した人が感想を書き込むこともできる。9月、開発中だったサイトも使い、都内でワークショップを開いた。被爆者がその場で証言して概要をサイトに載せたり、学生が感想を投稿したりしながら交流を深めた。2月にも第2弾を開く。

 岡山理事は「今後は各地で開きたい。被爆者と触れ合い、参加者が何を感じたかサイトに残すことで、関心がさらに広がれば」と期待する。

拠点施設の必要性訴え 被爆者運動資料 保管や公開

 継承する会の収蔵資料の大半は、被爆者運動の関連資料だ。その数は6千点を超える。さいたま市にある生協のビルの一室に保管させてもらっているが、収まりきらず、東京都港区に借りた別室にも分散している。

 内容は多岐にわたる。日本被団協の地方組織が1950年代に手掛けた被爆者実態調査の報告書、被団協が84年に発表し、運動の根幹となった「基本要求」の素案…。「核が人間に何をもたらしたか、被爆者は自ら調査研究して明らかにした上で、二度と繰り返させまいと運動を繰り広げてきた。その過程が分かる貴重な財産だ」。事務局の栗原淑江さん(71)は強調する。

 資料は学生ボランティアの協力を得ながら分類し、目録化。デジタル化も少しずつ進める。栗原さんは「被爆者の歩みから学ぶことは多く、原本をきちんとした環境で保管し、閲覧してもらえるような活動拠点が必要だ」と強調する。

 同会は、作家大江健三郎氏たちの呼び掛けで設立した当初から、拠点施設の開設を目指してきた。ことし5月に設立計画を公表したが、建設、運営資金の確保が課題となる。機運を高めようと、今月15日に市民向けのイベントを東京都練馬区の武蔵大で開き、継承活動の重要性や拠点設立への理解を訴える。事務局☎03(5216)7757。

(2018年12月11日朝刊掲載)

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