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被爆者・高蔵さん題材 短編アニメ制作 米在住の監督 本人と対面

証言生かし惨状を描く

 爆心地から260メートルの近距離で被爆した高蔵信子(あきこ)さん(93)=広島市安佐北区=の体験を題材にした短編アニメ映画が完成した。制作した米ニューヨーク在住のアニメーター、アンナ・サモさん(38)=ロシア出身=が高蔵さん宅を訪れ、「あなたの被爆体験を知ってから、私の生き方は変わった」と謝意を伝えた。(金崎由美)

 15分間の作品は「OBON(お盆)」。芸備銀行(現広島銀行)本店で被爆した高蔵さんの体験を、収録した肉声とアニメで伝える。被爆直後の惨状に加え、厳格だった父が傷ついた高蔵さんを介抱するシーンも描く。家族が集う日本の伝統行事を、絆の象徴としてタイトルにした。

 ドイツ人のアンドレ・ヘアマンさん(43)との共同監督作品になる。6年前に広島で3カ月間、被爆体験の聞き取りや資料の収集をしたヘアマンさんが脚本を執筆。それを読んだサモさんは「涙が止まらなかった。全てを奪い取る核兵器が再び使われてはならない」と参加を決めたという。

 「OBON」のタッチはどこか素朴だ。高蔵さんら被爆者たちが「あの日」を描いた「原爆の絵」を見続けたサモさんは「決してうまくはない、当事者の絵筆が持つ力に影響された」。

 資金不足に苦しみながらことし完成。11月の「広島国際映画祭2018」に招待され、高蔵さんと対面がかなった。サモさんは「高蔵さんの声を聞き続けながら、アニメの制作に2年間を費やした。高蔵さんの平和への思いが私を突き動かした」と語り掛けた。

 奇跡的に生き延びた高蔵さんは嫁ぎ先の寺の坊守を長年務め、寺の保育園で命の尊さを語ってきた。被爆者に多い血液の病気、骨髄異形成症候群(MDS)を患う。「原爆のせいで人生が損なわれた人も多い。そのことも世界に知らせてほしい」。自ら語ることが難しくなった今、作品に新たな望みを託す。

 作品はポーランドのクラクフ映画祭で部門別の最優秀賞にも選ばれた。今後の日本での上映は未定。

(2018年12月11日朝刊掲載)

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