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社説・コラム

『潮流』 戦没画学生の大作

■ヒロシマ平和メディアセンター長 岩崎誠

 東京・上野にある東京芸術大大学美術館で開かれたコレクション展でその作品と久しぶりに向き合った。

 久保克彦の「図案対象」。1944年に中国大陸で25歳で戦死した山口県平生町出身の画学生の遺作だ。並べると幅7メートルを超す5枚組みのデザイン画。学徒出陣で同大の前身東京美術学校を繰り上げで終えた久保が工芸科の卒業制作として残した。

 真ん中の絵は戦時下の作品と思えないほど挑戦的だ。炎上しながら海に墜落する戦闘機、海上で傾く船。赤く染まった空に飛ぶトンボ、鳥、グライダー…。17年前に当時の徳山市美術博物館で展示され、初めて見た時と変わらぬ驚きを覚えた。

 戦地に赴く前に全力を傾けた大作に、久保がどんな思いを込めたのか。印象的な「墜落」の場面から、かつては専ら反戦画と目された作品の意味を読み解く営みが、あらためて始まっている。ことしは久保のめいに当たる文筆家の黒田和子氏が「≪図案対象≫を読む」という美術書を出版し、NHKの番組「日曜美術館」でも特集された。

 鍵を握るのが近年修復された左右の4枚だ。幾何学模様も駆使した前衛的な抽象画。難解だが、全体を通じて文明崩壊への危機感を表したとの見方もある。久保が生きていれば日本を代表する美術家になり、歴史的傑作と評価されたかもしれない。

 ふと思ったのは、広島の基町高の創造表現コースで美術を志す生徒たちのことだ。被爆者からあの日の体験を聞き取り、絵にする試みはもう10年余り。16日から広島国際会議場で作品展が始まる。

 同コースから難関の東京芸術大に進み、久保の後輩となった卒業生たちもいる。ヒロシマの学びを胸に、志半ばで命を落とした戦没画学生の思いを継ぐことを願う。決して難しくはない。「好きなだけ絵を描く」という当たり前の営みである。

(2018年12月13日朝刊掲載)

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