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社説・コラム

社説 辺野古土砂投入 取り返しつかぬ暴挙だ

 選挙で示された沖縄の民意も、県民を代表して対話を求める知事の訴えにも、全く聞く耳を持たないということだろう。

 政府はおととい、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先とする名護市辺野古沿岸部での土砂投入を始めた。米軍基地建設に向けた埋め立ての本格的な開始である。海洋環境が大幅に破壊され、原状回復が困難になってしまう段階にまで踏み込んだ。地元の反発を無視した暴挙と言わざるを得ない。

 「県民の理解と協力を得られるよう粘り強く取り組む」。菅義偉官房長官はそう述べたが、丁寧なのは言葉遣いだけだ。普天間の危険除去は「辺野古移設が唯一の解決策」とばかりに、負担押し付けに終始している。

 2月24日には、辺野古移設への賛否を問う県民投票が予定されている。なぜそれまで待てないのか。指摘されるように、埋め立てという既成事実をつくって反対感情の強い県民を諦めさせるのが狙いとしか思えない。

 辺野古移設しか解決策がないというなら、正々堂々と粘り強く県民を説得する努力を重ねるのが筋だ。それが民主主義、地方分権の基本ではないか。

 なぜ辺野古移設なのか、なぜ急ぐのか、そもそも在日米軍専用施設の7割が集中している沖縄の現状をいつまで放置するつもりか。県民の疑問に真剣に向き合うことなく、政府は今回、土砂投入という強行策で応えた。誠意がなさすぎる。

 手続きにも問題が多い。沖縄県による埋め立ての承認撤回に対し、沖縄防衛局の申し立てで国土交通相が撤回の効力停止を決めた。行政不服審査法に基づく措置だが、今回のような行政機関は法の適用対象から除外されると条文に明記されている。

 政府のこうした手法は国民のための権利救済制度である行政不服審査制度の乱用で、法治国家にもとる―。政府の対応を憂慮する声明を100人を超す全国の行政法の研究者が出したのも無理はあるまい。

 振り返れば辺野古への基地建設は合意違反が目立つ。普天間返還の代替施設として当初構想されていたのはヘリポート新設だった。ところが、いつの間にか辺野古沿岸部を埋め立てた大規模な新基地になった。

 政府自身が、めどとしていた2022年度の普天間返還は困難だと認めている。危険な普天間はそのままなのに、当初合意にない新基地を造られるのでは県民の反発は当然だろう。

 辺野古への基地建設自体にも不安がある。ジュゴンが泳ぎ、サンゴ礁に彩られた美しい海洋環境を傷つけてしまうからだ。加えて地盤が極めて軟弱なため防衛省の当初計画では5年だった工期が、県の新たな試算では13年に延びる見込みだ。費用も当初の約2400億円が、最大約2兆5500億円にまで膨らむという。費用対効果を政府はどれほど考えているのか。

 津波の心配がない普天間に比べ、辺野古は被害が懸念されている。滑走路の長さも普天間の半分以下で、離着陸できる航空機には限りがあるそうだ。政府は「抑止力」を強調しているが、本当に機能するのか、その土台が薄っぺらに思えてくる。

 基地建設を強行する政府は冷静さを欠いている。ただちに土砂投入を止めて、沖縄の民意と正面から向き合うべきだ。

(2018年12月16日朝刊掲載)

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