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上関原発 補償金の受領に賛成 山口県漁協祝島支店 反対運動へ影響も 

 中国電力の山口県上関町への原発建設計画で、県漁協は28日、県漁協祝島支店(旧祝島漁協)が受け取りを拒否している漁業補償金約10億8千万円の取り扱いを協議する集会を同町祝島の祝島公民館で開き、支店組合員による無記名投票の結果、過半数が受け取りに賛成した。

 祝島支店は原発計画に反対し、これまで補償金拒否を貫いてきたが、過去の採決を覆す結果となった。組合員への配分は今後の協議になる。

 祝島は上関原発反対運動の拠点。祝島支店はその中心的な役割を果たしてきた。受け取りは、反対運動全体へ大きな影響を及ぼすとみられる。これまでは漁業補償金は同支店は受け取らず、県漁協本店(下関市)が管理していた。

 補償金をめぐる採決は2009年2月、10年1月、12年2月に続き4回目。過去3回はいずれも反対が賛成を上回っていた。

 しかし、今回は11人分の委任状を含めた全組合員53人が議長を除いて無記名投票し、賛成が31人と、反対の21人を上回った。

 3回目の採決以降、祝島支店は補償金を議題にしないことも決めていたが、今回は県漁協本店の主導で開かれた。

 今後は、祝島支店と本店が組合員への補償金の配分額の決定方法を協議する。県漁協幹部は「受け取る意思が確認できた」と話し、手続きを進める考えを示した。

 人口約500人の祝島の住民は大半が計画反対派とされる。上関原発を建てさせない祝島島民の会の山戸孝事務局次長は「今回の結果は残念だが、30年間運動を続けた多くの島民の思いはゆるがない。反対運動を続けていく」と話した。

 中国電力は「当社としては漁業補償は既に支払っている。各漁協間での取り扱いについてはコメントする立場にない」としている。(久保田剛)

上関原発計画に伴う漁業補償
 2000年4月、原発予定地周辺に漁業権を持つ8漁協の共同漁業権管理委員会などは、旧祝島漁協(現山口県漁協祝島支店)を除く7漁協の賛成で総額約125億円の漁業補償条件に同意した。中電は全額を支払ったが、旧祝島漁協だけが受け取りを拒んでいた。

【解説】原発計画へ姿勢変化 高齢化や経済的負担も

 中国電力の上関原発計画(山口県上関町)に伴う漁業補償金を、県漁協祝島支店の組合員の過半数が28日、受け取りに賛成したことは、反対運動の象徴である祝島で原発計画に対するスタンスに変化が生じている表れといえる。ただ、原発反対の声が小さくなったというより、漁業者の高齢化や、上関原発計画の停滞が採決に影響を与えた可能性もある。

 祝島支店は、魚価の低迷などで赤字経営が続く。支店幹部によると、その赤字を穴埋めするために組合員は昨年度、1人当たり約9万円を負担した。本年度の支払いも十数万円に上るとみられる。

 漁業者の大半は高齢者。この日の集会で議長を務めた祝島支店の恵比須利宏運営委員長は「年金に頼る漁業者も多い。船を出せなくても穴埋めする金は払わなくてはならない」と話した。経済的な負担増が補償金受け取りの流れを強めたとみる。

 また、福島第1原発事故を受けて国はエネルギー政策の見直しを表明。上関原発計画も止まっている。反対派の漁業男性(61)は約半年前、「どうせ建設されないなら受け取ったほうがいいと考える人も増えた。推進派の切り崩しが激しく、数が拮抗(きっこう)してきている」と漏らしていた。その不安が現実となった格好だ。

 祝島の漁業者の大半は約30年にわたり、計画に激しく反対してきた。その中心が祝島支店だった。しかし、支店幹部の意思とは裏腹に組合員の半数以上が受け取りに賛成したことは、今後の反対運動に影響する可能性もある。

 上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表は「信じられない気持ちだが、運動を今後も続ける」と衝撃の大きさをにじませていた。(久保田剛)

(2013年3月1日朝刊掲載)

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