×

ニュース

原爆症訴訟 12日から各地で判決 肝機能障害めぐる初の高裁判断が焦点

■記者 岡田浩平

 この春、原爆症認定集団訴訟で5つの判決が各地で言い渡される。各地裁判決とは裏腹に国が行わない肝機能障害の認定についての初の高裁判断が、焦点となる。河村建夫官房長官は5月の東京高裁判決を認定訴訟問題を全面解決する「タイムリミット」と明言しており、6年に及ぶ集団訴訟はヤマ場を迎える。

 判決は3月12日の東京高裁(千葉原告)から5月28日の東京高裁(東京原告)まで続く。肝硬変など肝機能障害は千葉や近畿、東京の原告が高裁で争っている。いずれも地裁は原爆症と認めたが、厚生労働省は放射線との関連を否定し、認定していない。

基準から漏れる  集団訴訟は、2003年4月から広島など全国17地裁で計306人が提訴。各地裁判決を受け、国は昨年4月から認定基準を緩和したが肝機能障害は漏れた。それ以後の判決も肝機能障害を原爆症と認めている。1月の鹿児島地裁判決まで国が13連敗した集団訴訟の主な争点となってきた。

 日本被団協など原告側は、肝機能障害が認定されれば「相当数の原告、被爆者が救われる」とみる。被団協の田中熙巳(てるみ)事務局長は「原告全員の救済へ認定は欠かせない」と強調する。

 こうした経緯を念頭に、昨年11月に原告団の代表と面会した河村長官は、東京原告の東京高裁判決(5月28日)を「政府側としても判決を待つ最後。これで全体判断をしなければならない」と述べた。

上告断念求める  その後、千葉原告の高裁判決の期日が先になったため、被爆者たちは解決への動きを前倒ししている。今月12日以後、厚労省前での上告断念を求めて行動し、舛添要一厚労相との面会を申し入れる。

 「千葉の原告が東京高裁で勝訴、確定すれば、やはり肝機能障害が争点となっている続く広島(今月18日)も地裁で勝って確定する状況が出てくる」と弁護団の1人、内藤雅義弁護士はみる。

 原告側は「全員救済」の条件として、①肝機能障害と、確定済みの高裁判決で認められた甲状腺機能低下症を積極認定の対象に加える②一審で勝った原告50人の認定③個別の総合審査の充実④敗訴した原告をどう救うか厚労省と協議-を求める。

 ただ、自民党の「原爆症認定を早期に実現するための議員懇談会」世話人代表の寺田稔氏は、3月の判決だけで厚労省を一挙に解決へ突き動かすのは難しい、とみる。「判決が出そろう当初の5月を目標に、官邸や厚労省への働き掛けを強めたい」と構える。

 訴訟の一括解決は、被爆の実態に合わせた認定基準への改定を意味する。原告、被爆者が待ち望む「解決の春」となるか、注目される。


<原爆症認定集団訴訟の判決日程> ※日本被団協、各弁護団まとめ

          裁判所        原告数(うち未認定)     主な病名
3月12日   東京高裁(千葉原告)     4( 2)       肝硬変、心筋梗塞(こうそく)
   18日   広島地裁(第2陣)       25( 5)      慢性肝炎、肝硬変、白内障
   27日   高知地裁             1( 1)      虚血性心疾患
5月15日   大阪高裁(近畿第2陣)    11( 5)      肝硬変、心筋梗塞、体内異物
   28日   東京高裁(東京原告)    30(10)      肝機能障害、甲状腺機能低下症

(2009年3月11日朝刊掲載)

関連記事
原爆症早期審査求め 被爆者89人 国に不服申し立て (09年1月19日)
広島で原爆症訴訟支援の集い 全員認定へ団結を (08年12月10日)

年別アーカイブ