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社説・コラム

社説 沖縄県民投票 全県実施へ 辺野古工事 まず中止を

 沖縄県名護市辺野古地区への米軍新基地建設について、賛否を問う県民投票が全41市町村で実施されることに落ち着いた。

 一時は5市が不参加を決めるなど、全県での実施が危ぶまれていたが、賛否の二者択一から三者択一に増やす方向で、県議会の与野党各会派が合意した。5市の市長も一転、参加の意向を示している。全県実施が実現することをまずは喜びたい。

 政府も今度こそ真摯(しんし)に受け止めなければならない。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の返還もめどが立たぬまま先月、土砂投入という暴挙に踏み切った。沿岸部の環境を大きく破壊し、回復を難しくしている。

 埋め立て予定海域には地盤が軟弱な所もあり、建設に不向きだ。政府は数年前に海底調査で把握していながら、土砂投入を強行した。埋め立てを既成事実化して県民を諦めさせ、反対の民意をくじく思惑が透ける。

 政府の姿勢は不誠実に過ぎると言わざるを得ない。来月24日の県民投票まで1カ月を切っている。少なくとも審判が下るまで、工事をまず中止すべきである。それこそが安倍晋三首相の言う「誠意」ではないか。

 県民投票は市民グループが署名を集めて直接請求し、昨年10月に県議会で条例が成立した。賛否を二者択一で問い、多い方の票が有権者の4分の1に達すれば、知事は結果を尊重しなければならないと定めた。

 ところが「辺野古移設は国の専権事項」などとして、不参加を表明する首長が相次いだ。宜野湾、宮古島、沖縄、うるま、石垣の5市であり、議会も投開票事務に関わる予算などを否決した。安倍政権と関係が近く、玉城デニー知事と距離を置く市長や議会である。

 5市の有権者は計約36万人に上り、県全体のおよそ3割に相当する。3割が投票できない県民投票では、訴求力が低くなる恐れもあった。

 有権者から投票機会を奪ってはならない。疑問視する声や埋め立て強行に対する批判が県民をはじめ識者、内外の著名人から湧き上がったのは当然だ。一方で、不参加を表明した市長の「賛成と反対の二者択一方式では、県民の分断が生じかねない」との懸念も理解できる。

 選択肢への不満を受け、「どちらでもない」を加えた三者択一に増やすことで玉城知事らが調整に動いた。県議会の全会派が一致し、29日にも条例改正する見通し。不参加としていた5市長も市民の反発を受け、方針転換を余儀なくされた。

 三者択一となったことで、民意の明確さが薄れないか。懸念はあるが、白黒を簡単に示せない根深い事情があることも考慮せねばなるまい。

 基地返還に伴う跡地の再開発が沖縄の経済活性化に最も効果的だ。にもかかわらず政府は、活性化や雇用につながる予算を盾に、基地か振興策かと迫り、県民を引き裂いてきた。

 そこに沖縄以外の都道府県民は十分に思いをはせることなく、結果として沖縄に負担を押し付けてきたことは否めない。

 辺野古の基地建設には反対の民意が知事選や国政選挙で繰り返し示された。無視する政府も県民投票には目をそらさず、向き合うべきだ。もちろん国民もである。米軍基地負担について自分の問題として考える時だ。

(2019年1月28日朝刊掲載)

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