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社説・コラム

『記者縦横』 南方特別留学生 継承を

■ヒロシマ平和メディアセンター 山本祐司

 広島文理科大(現広島大)で8人が被爆した「南方特別留学生」に関心を持ち、取材を重ねている。昨年には京都市に赴いた。犠牲になった留学生の一人、サイド・オマールさんを語り継ぐ人たちに会うためだ。現在のマレーシアから来日し、被爆して帰国途中の京都で命を落とした。

 同市の円光寺の墓に、オマールさんは眠る。寒空の中、その生涯を伝えようと機運を高める人たちに集まってもらった。元小学校教諭の早川幸生さん(70)は花で彩られた墓を見つめ、目元を手で拭った。「オマールさんも喜んでくれるでしょう」。近くの小学校に勤務していた時代、墓の由来を学び広島の修学旅行を始めた積み重ねがある。

 「被爆地でなくても原爆を学べるのがオマールさんの存在」。その言葉に自らを省み、もう一人の犠牲者のことを思った。同じく現マレーシア出身のニック・ユソフさん。広島市佐伯区の光禅寺に眠る。広島大が毎年8月に墓前供養をしているが、日頃訪ねる人は少ない。守ってきた前住職は「どんどん風化する」とこぼしつつ墓に案内してくれた。どう後世に伝えるか苦心している様子だった。

 新たな希望もある。広島で南方特別留学生たちの継承に個別に携わった人たちが会をつくり、16日に原爆資料館でその足跡を学ぶ初の研修会を開く。マレーシアからの広島大留学生も参加するという。被爆した8人は2016年で全員世を去った。せめて記憶に刻むことが求められている。

(2019年2月1日朝刊掲載)

被爆死の南方特別留学生オマールさん 京都で広がる継承の輪(2018年12月24日朝刊掲載)

南方特別留学生 足跡学ぶ研修会 広島で来月16日(2019年1月28日朝刊掲載)

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